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『ミッション:インポッシブル フォールアウト』感想~とにかく死なないでくれ

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(C)2018 Paramount Pictures. All rights reserved.

わたくし、実は初めて好きになった俳優がトム・クルーズで、きっかけはテレビで観た『ミッション:インポッシブル』第1作目でした。

小さい頃には兄が借りてくるジャッキー映画やシュワちゃん映画ばかり観ていて、初めて目にする正統派イケメンのかっこよさに12歳の私はクラクラとやられてしまい、その後『ザ・エージェント』をテレビで観て本格的にファンになったものでした。

そんなトム・クルーズ主演、「ミッション:インポッシブル」シリーズの6作目となる『 ミッション:インポッシブル フォールアウト』を鑑賞したので感想です。

 

 

作品情報

原題:MISSION: IMPOSSIBLE - FALLOUT
製作年:2018年
製作国:アメリ
上映時間:147分
配給:東和ピクチャーズ
監督・脚本:クリストファー・マッカリー
出演:トム・クルーズヘンリー・カヴィルヴィング・レイムスサイモン・ペッグレベッカ・ファーガソンショーン・ハリス

 

あらすじ

盗まれた3つのプルトニウムの回収に成功したIMFのエージェント、イーサン・ハント。だが、仲間を救出する際にプルトニウムを再び奪われてしまい、同時核爆発を未然に防ぐ新たなミッションが下される。手掛かりは“ジョン・ラーク”という男の名前と、彼が接触する“ホワイト・ウィドウ”と呼ばれる謎めいた女の存在のみ。世界に刻一刻と迫る〈終末の危機〉。チームの仲間や愛する人までもが危険にさらされ、幾つもの〈フォールアウト(予期せぬ余波)〉がイーサンに降りかかる…!

公式サイトより引用http://paramount.nbcuni.co.jp/mi6/

 

感想(ネタバレなし)

まず、端的に感想を述べると、ストーリーは怖ろしいほど頭に入ってこなかったけど、とにかくアクションがすごかった!!!

いや、これはストーリーを追うのが大変でした。本当に。

あとで知ったことによると、本作の脚本はアクション優先で、撮影しながら脚本を書いていったらしく、それでゴチャゴチャとした分かりにくいものになっているそうで私の理解力の問題だけじゃなかったんだ…と少し安心。

もともと煩瑣な登場人物と組み入ったストーリーを理解する頭がないうえに、前作の復習をせずほとんど覚えていなかったので、余計に頭に入ってこなかったんだと思いますが。

最初の辺りは説明的なシーンも多いため追うのに精一杯でしたが、結果的にはその煩わしさを吹き飛ばしてくれるほどのアクションシーンに胸がときめきまくりで、楽しかったー凄かったーというのが観終わっての感想です。

細かいことはネタバレありのほうに書いていきますが、とにかくトム・クルーズが体を張りすぎなので、こんなこと続けてたらいつか死んでしまうんじゃないかという不安がつきまといます。そんなすごいアクションシーンだらけの映画でした。

 

感想(ネタバレあり)

最初のスカイダイビングのシーンは、HALO(ヘイロー)ジャンプと呼ばれるパラシュートによる潜入作戦のためのものらしいですが(高い高度から降りて低いとこでパラシュートを開く方法。敵にレイダー感知されにくいとか)、トム・クルーズはこのシーンのために100回以上もダイブしたらしいですね。異常ですね。

普通の人間からしてみれば、こんなの1回飛ぶだけでも無理なのに、それを100回以上やるという。これは勇気の有無を通り越して、面倒くささの問題にもなってきます。

地上で同じシーンを100回撮るってだけでも役者は大変だなーと思いますが、ヘイロージャンプを100回。上がって、降りて、諸々の準備して、また上がって、また降りてっていうのを100回繰り返すんですよ。何日にも渡って。スタッフも役者もどれだけ大変か。

面倒くさがりな自分はもうそこに感心してしまいます。本当に頭が下がる。

ところでこのシーン、CIAが立てた監視人ウォーカー(ヘンリー・カヴィル)が、イーサン(トム・クルーズ)の酸素ボンベの線みたいなやつを外して先に飛んでいきますが、私はこの場面で「ウォーカー早くも正体(何かしらの敵)をあらわしやがった!」と思っていたら、普通に線みたいなのを付け直してイーサンがあとから飛んでったので「な、なんだ、すぐ付けられるやつか…。ただの意地悪か…」となりました。ええ、ただそれだけなんですが、これ私と同じように思った人ほかにも居ないですかね?ウォーカーが最初から怪しさムンムンなんで余計にそう思ってしまった…

 

敵のソロモン・レーン(ショーン・ハリス)の護送車を襲うシーンでは、車ごと水中に落とされたレーンが車中の水をかぶる寸前に、肺にたくさん空気を送り込む呼吸法をしてたのが何気に好きでした。冷静なやつめ。

それからイーサンが、というかもうトムがと言ったほうが早いけど、パリの街中をバイクで駆け巡るチェイスシーン。もちろんノーヘルで本人によるスタント。本人アクションだからこそ見せることのできるカメラワークやカットになっているから迫力満点です。またバイクが似合う似合う。スタントマンばりにアクションがこなせる才能といい、トム・クルーズはほんと何者なんでしょ。すごすぎる…

バイクの次は、車での逃走シーンをはさんで、今度はトム・クルーズの走りとビル間ジャンプを堪能するシーンがやってきます。このときトムさん56歳ですよ。異常だよ異常。

ベンジーサイモン・ペッグ)のナビゲートっぷりにあなた現場担当で本当に大丈夫ですかと言いたくもなるが、そこはベンジーのご愛敬。おじさんなのにしっかりかわいいサイモン・ペッグも異常だよ。

そしてヘリコプターシーンですよ。ここは本当に最高でした!トム・クルーズ様ありがとおおおおって感じです。ヘリコプターの操縦を何時間も訓練して撮影に挑んだらしいトムさん。まあ、普通の俳優じゃ見れない画がたくさん見れます。あとこのシーンではちょっと切れ気味なイーサン・ハントなのがいいですね。かっこいい。

ヘリシーンあたりからのヘンリー・カヴィルの悪役っぷりも素晴らしかったです。スーパーマンより全然良いじゃんか!

 

脚本があれだってことは書きましたが、細かいことは置いておいて今回は前作につづきチームプレイでの勝利っていう感じが前面に出ててそれも良かった。やっぱりここでもサイモン・ペッグが良い味付けをしてくれますね。プルトニウムが入ってるかもしれない箱が開かずに苛立って銃で撃とうとして「んーん、ニュークリアアアァァ(核兵器)」と我に返るシーンは笑ったw そのあとも足手まといになってイルサに助けられてるしな。

イーサンの元奥さんが手伝う様子を聞きながら「I like her」となるイルサも類型的な描かれ方じゃなくてとても良かった。

最後元奥さんが、イーサンに「あなたが居てくれるおかげで安心して眠れるわ」と言ったシーンでは、なんだかトム・クルーズの頑張りと重なって、こちらも涙がにじむ始末でしたわ。

いや、本当にトム・クルーズさんありがとう。

 

そしてクリストファー・マッカリートム・クルーズのコンビはやっぱり最高ですね。『アウトロー』と『オール・ユー・ニード・イズ・キル』が特に好きなトム作品ですが、このどちらもクリストファー・マッカリー。オール~のほうは脚本のみだけれども。トム・クルーズのイメージを逆手にとった見せ方も、本作のような王道の見せ方もでき、非常に楽しませてくれます。

最後に、トム・クルーズは危険なことしすぎてるので、とにかく死なないでくれとそれだけを願っています。

 

『アンセイン 狂気の真実』感想~全編iPhoneで撮影。あのホラー映画の引用も?

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(C)2018 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

スティーヴン・ソダーバーグ監督によるサスペンススリラー『アンセイン ~狂気の真実~』の感想です。

 

作品情報

原題:Unsane
製作年:2018年
製作国:アメリ
上映時間:93分
配給:劇場未公開
監督・撮影・編集:スティーヴン・ソダーバーグ
出演:クレア・フォイ、ジョシュア・レナード、ジェイ・フェイロー他

あらすじ

ストーカーのデヴィッドという男につきまとわれ、母親に本当の理由を告げずに引っ越して新たな生活を始めたソーヤー。だが精神的に追い詰められた日々は変わらず、ある日、とあるカウンセリング施設を訪れてカウンセラーと話をするが、強制的に入院させられることに。彼女は警察に助けを求めるが、警察も周りの看護師も取り合ってくれない。あげくの果てに、人を殴ってしまい入院期間が延長されてしまう。さらに、彼女の前にあのデヴィッドが職員として現れるのだった……。

公式サイトより引用http://www.foxjapan.com/unsane-jp

 

感想(ネタバレなし)

全編をiPhoneで撮影した意欲作

ストーカー被害によるトラウマが治らずカウンセラーのところに行ったら精神病棟に強制入院させられ、しかもそこにストーカー男が職員として居たっていう悪夢のような話。 

ソダーバーグ監督自ら全編をiPhoneによって撮影した意欲作です。

 

オーシャンズ11』シリーズ、『エリン・ブロコビッチ』『トラフィック』『セックスと嘘とビデオテープ』などなど、ソダーバーグは結構いろんなタイプの作品を撮るので、ものによってはあまり好みじゃないのもありますが、『セックスと嘘とビデオテープ』『サイド・エフェクト』あたりが個人的にはとても好きな作品でした。

 

そんなソダーバーグによる本作は、まあ、内容としては割とよくある感じのサイコスリラーで、何よりまず作るときに「iPhoneで撮るための映画」というのが念頭にあったんだと思います。そのためのジャンル選定。

やっぱりホラーとかスリラー系の映画だと、荒い質感の画面が生きるんだと思います。

言ってしまえば、低予算でも機材もなくてもiPhoneだけで及第点の映画は撮れるんだぜっていうソダーバーグによる証明でしょうか。だからあえて奇をてらった内容にしなかったと言えなくもありません。

実際、ちょっとしたドキュメンタリーっぽさや、精神病棟の閉塞感などが画面から滲み出ていて観る側も息苦しくさせるようなものがありました。

こういうふうに撮るんだっていうのをもっと注目して観れば良かったと今少し後悔してます。

 

感想(完全にネタバレ)

冒頭はサム・ライミ監督『スペル』を引用か

この手のストーリーの映画って、だいたい「主人公が正しいのか、もしくは主人公がおかしいのか」で引っ張っていくものが多いと思うんですけど、この映画は意外に早く本当にストーカー男だったっていうのが明示される作りになっていて、私はそれが良かったです。今さらその引っ張り方されてもなんかもうどっちでもいいよって気になるし。

ストーカー男は母親や潜入記者(あとでわかる)など主人公の近くに居る人間を殺していきますが、別名でなりすましていた男も殺していたということがあとで分かります。接近禁止令を出されてるから名前を変える必要があったんでしょうが、あれって主人公が強制入院されてるところをストーキングして見ていて、チャンスだ!と思って人を殺して名前を借りて施設に就職したってことですよね?仕事早すぎませんか(笑)

黒人の良い兄ちゃんは実は潜入記者でこの病院の悪事を暴こうとしていたようですが、ソダーバーグって巨大企業とか組織とかに立ち向かう人の話ほんとに好きですよねw

それからジュノー・テンプル演じるヴァイオレットちゃんがかわいそすぎやしませんか。もう主人公からはずっと相手にされず、最後には良いように利用されて殺されちゃってるし。あまりに不憫だ…。

主人公を演じたクレア・フォイさんは初めて知ったけど、リース・ウィザスプーンに激似ですね。

そんなクレア・フォイ演じる主人公はなかなかの強気な女性でたくましかったですが、一番最初のシーンが、お客さんからの銀行の融資のお願い(?)を電話で断るところなんですよね。しかも電話の相手は女性らしい。これは間違いなくサム・ライミ監督の『スペル』ですよね。『スペル』は銀行員が老婆のお願いを断ることから怒りを買っておかしなことが起きていきます。この映画の主人公も『スペル』の彼女のように出世を意識している感じのシーンがありましたしね。

人を無下に扱うと災いが起こりますよという教訓にあらためて気が引き締まる思いです←

 

『ファントム・スレッド』感想~背後に家族が見えない女と、背後に家族が見えすぎる男

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(C)2017 Phantom Thread, LLC All Rights Reserved

今日はポール・トーマス・アンダーソン監督『ファントム・スレッド』を観ました。

あの『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』以来のダニエル・デイ=ルイスとの強力タッグですが、今回は意外にもオートクチュールの世界を舞台にした愛憎劇でした。

 

 

作品情報

あらすじ

舞台は 1950 年代のロンドン。英国ファッションの中心的存在として社交界から脚光を浴びる、オートクチュールの仕立て屋 レイノルズ・ウッドコック(ダニエル・デイ=ルイス)。ある日、レイノルズは若きウェイトレス アルマ(ヴィッキー・クリープス)と出会う。互いに惹かれ合い、レイノルズはアルマをミューズとして迎え入れ、魅惑的な美の世界に誘い込む。しかしアルマの出現により、完璧で規律的だったレイノルズの日常に変化が訪れ…。やがてふたりがたどり着く、究極の愛のかたちとは―。

Filmarksより引用https://filmarks.com/movies/76957

 

感想 (ネタバレなし)

優雅なオートクチュールの世界

ポール・トーマス・アンダーソンフィルモグラフィーからしたら、オートクチュールのドレスデザイナーを主人公に優雅な世界を舞台にしてるのはちょっと意外。映像もとても綺麗で典雅な作りになっています。PTAさん、こんな個性もあったのか…と。

しかし、後で見たダニエル・デイ=ルイスのインタビューで、「何気なく主人公の職業を決めてしまって僕も監督も自分の首を絞めてしまった」と言っていて、どうやらクリエイティブな職業にしたいとは思っていたけど、わざわざハードルの高いものを選んでしまったそうです。ちょっと安心しました(笑)。

でも2年前に草案を持ってきた監督と二人でアイデアを出しながら作品を作り上げていったようで、本当にいいタッグでやってるんだなと感じました。 

音楽も引きつづきレディオヘッドのギタリスト、ジョニー・グリーンウッドが担当し、これまた良い仕事をしてくれてました。軽やかで美しい音楽が作品を彩ります。

 

監督、俳優、音楽家、才能ある人たちの優雅な仕事がつまっています。

 

しかし、あくまで監督はポール・トーマス・アンダーソン。ただただ優雅なだけで済むはずはありません。

男女のじりじりとした膠着状態のなかからだんだんと怖ろしさの顕現してくる映画でした。

 

感想(ネタバレあり) 

2人の出会い~イケメンおじさんと若いムスメ

ダニエル・デイ=ルイス演じる高級ドレスデザイナー、レイノルズは、完璧主義な仕事人間で、いささか気難し屋すぎるところがあります。家の雑事を取り仕切る姉と一緒に暮らし、そこに恋人も住まわせますが結婚はせず、相手が鬱陶しくなったらポイです。

そんな彼が出会ったのがレストランでウエイトレスをしていたアルマ。

イケメンおじさんと、そのミューズになる若い娘の出会いです。

この出会いのシーンが良かったんですよね。若い娘が椅子につまづき、照れて「えへへ」と笑った姿に、イケメンおじさんがグッときます。それまでの神経質な様子がうそのように、ニタニタとした笑顔をずっと浮かべて彼女を見つめるおじさん。ここで普通のおじさんなら気持ち悪いところですが、なんといってもダニエル・デイ=ルイスのイケメンおじさんなので、そのニタニタ笑顔が気持ち悪くない。彼女のほうもまんざらではなく、結局その日にデートの約束をします。

タニタ笑顔といい、スマートな誘い方といい、可愛らしい若い女性とおじさんの感じがよく出てました。

 

そこからあっという間に恋人関係となり、家に住むようになるんですけど、レイノルズの姉の存在が大きくなかなか二人になる時間がありません。

結婚せず、ずっとレイノルズの傍で彼を支えながら一緒にやってきた姉と弟の絆はなかなかのもの。ちょっと『クリムゾン・ピーク』を彷彿とさせるものがあります。思えばあれも英国ものでした。

また最初は幸せそうに見えましたが、一緒に住むようになると彼の気難し屋の面がどんどん出てきてケンカも増えていきます。

朝食時に男はドレスのデザインをしているのですが、その横で食器をがちゃがちゃ言わせたりバターを塗る音がうるさい女にイライラして当たります。神経質なやつです。(正直わたしも生活音大きいの気になるから気持ちはわかるw)

最初はあんなにニタニタ笑顔だったのに結局また別れるパターンか…と思いきや、アルマという女性は違いました。怖ろしい女でした!

 

背後に家族が見えない女と、背後に家族(特に母親)が見えすぎる男

ここからは完全にネタバレになっていきますが、 アルマはレイノルズに毒キノコ入りの食事を食べさせ、弱った状態にさせて彼を自分のものにしようとします。やべえ奴です。

でも、どうも変だなとは思ってたんですよ。

彼女には家族の影がまったく見えません。思えば、最初の食事で、レイノルズがアルマに母親の写真を持っているかと聞きますが、彼女は家にあるわとその有無を答えるだけで、それ以上母親については話しませんでした。まあ、レイノルズが母親への異常な執着を示す話をしだしたので、何も自分からは話せなかったのかもしれませんが、一般的な映画なら、女性は母との思い出やどんな母親なのかを話したりするものです。

その後も、二人は結婚もしたのに、彼女の家族らしき人々は出てきません。情報すら何もありません。彼のほうは家族の話がいっぱいなのに。これってなんかすごく怖くないですか?彼女の背景がまったく見えないんです。

ポール・トーマス・アンダーソンは、彼女の家族を見せないことで、アルマという女性に得体のしれない怖さを注いだんだと思います。

もともとウエイトレスという職業で、裕福な家庭に育ったわけではないことは容易に察しがつきます。もしかしたら彼女は、家庭環境により毒キノコを入れるような屈折した人間になったのではないかという推測ができますし、根がサイコパスという推測もできます。

たまにホラーとかスリラー系の映画で、「実は彼女が小さい頃に家族を皆殺しにしていた!!!」みたいなオチの作品がありますが、彼女はそのタイプなんじゃないでしょうか(笑)。フツーの人ならなかなかあんなことしないですからね。

 

かたやレイノルズのほうは、若くして亡くなった自分の母親に取りつかれています。亡霊まで出てくるので、本当の意味でも取りつかれています。だから「ファントム(=亡霊、幻影)・スレッド(糸)」なんでしょうね。

きっとお母さんは本当に素敵な女性だったんだと思います。でも、中年になった今でもあれほど母親の死を引きずっていては、それは彼の恋人となる女性たちは大変です。 

ましてやそばにずっと姉もいるし。

 

日本には結婚前にウェディングドレスを着ると婚期が遅れるとかいう迷信もありますが、本作によるとイギリスには「ウェディングドレスを作る女性は一生結婚できない」という迷信があるようです。

アルマはその迷信にも惑わされているようでしたが、小さい頃から弟のドレス作りを手伝い、結婚せずとも毅然と生活しているあの姉が一番まともな人だったんじゃないかっていうふうにも見えました。演じたレスリー・マンヴィルさんもとても良かった。

あの二人はあの二人で独自の愛を貫いてくれたらいいと思いました(笑)。

 

 

【映画ファンにおすすめ】IMDbの動画コンテンツ『Director's Trademarks』とは?

こんにちは。

今日は海外映画サイトIMDbの超おすすめ動画コンテンツ『Director's Trademarks』を紹介したいと思います。

映画好きや映画のことを学びたいという人には本当におすすめの動画なのでぜひチェックしてみてください。

まず、IMDb(インターネット・ムービー・データベース)とは、世界中の映画の情報を網羅したデータベースサイトのことで、映画好きなら誰でも一度は使ったことあるって言ってもいいんじゃないかってくらいの世界最大の映画サイトです。

基本的にIMDbはキャストやスタッフを調べたり、ランキングを見たりするために使う人が多いんじゃないかと思いますが、実はその中に映画ファンへおすすめの隠れた名コンテンツが存在します。

それが、名だたる映画監督たちの作品に共通する特徴=トレードマークを作品映像とともに紹介した『Director's Trademarks』です。

www.imdb.com

※上記のサイトに飛んでから、真ん中あたりにあるVideos ⇒ See all 27videos >>と進むとすべてのビデオが表示されるので、見やすいと思います。

2019年8月現時点では、27人の映画監督のビデオが作成されていて、ヒッチコックキューブリックスピルバーグからデイミアン・チャゼルといった若手まで、タイプや年代も様々。

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IMDb - Director's Trademarksより 映画監督一覧

まずもうこのビデオの何が素晴らしいって、各監督の性癖と言ってもいいような異様なこだわりが数分のなかに詰まっていることです。

動画の長さは平均3分程度の短い映像なんですが、 濃度がすごい。

しかもその監督のいろんな作品から共通する特徴を取り上げてるんで、説得力があります。また、ひとえに特徴と言っても、映画技法や、場面、登場人物、世界観、色づかい、小ネタ等々、内容も幅広くて面白い。

映画を勉強してる人や、映画監督を目指してる人なんかは参考になるものがあるんじゃないかと思うし、いち映画ファンが見ても楽しいはずです。

ちなみにYoutubeIMDbページにも投稿されてるようなので、下にそれぞれの監督のリンクを貼ろうと思いますが、とりあえず、こんな感じだよということでコーエン兄弟の動画を置いときます。

youtu.be

いかがでしょうか。ビデオの編集自体も良いですよね。

説明はすべて英語ですが、シンプルな単語ばかりなので、映像と合わせて意味も推測しやすいんじゃないかと思います。

 

名監督たちの作品の美しいシーンが凝縮もされてるし、編集も使われてる音楽もかっこいいので本当におすすめです!まだ見たことない人にはぜひ一度見てみてください。

 

以下、現在ビデオが作られてる人たち(Youtubeリンクあり)。

(おそらく掲載順)

リュック・ベッソン

ジェームズ・キャメロン

スティーヴン・スピルバーグ

ウェス・アンダーソン

スタンリー・キューブリック

クリストファー・ノーラン

M・ナイト・シャマラン

ピーター・バーグ

スパイク・リー

アルフォンソ・キュアロン

スティーヴ・マックィーン

クエンティン・タランティーノ

ピーター・ジャクソン

デイミアン・チャゼル

(なぜかリンクが見つからない…上のサイトから見てね)

ルカ・グァダニーノ

コーエン兄弟

デヴィッド・フィンチャー

フィンチャーもリンクが見つからない…上のサイトからどうぞ)

ジェームズ・ワン

ケヴィン・スミス

キャサリン・ハードウィック

ヨルゴス・ランティモス

ハーモニー・コリン

ティム・バートン

アルフレッド・ヒッチコック

テレンス・マリック

ガイ・リッチー

トッド・フィリップス 

 

『レディ・バード』感想~グレタ・ガーウィグ的、痛い女子高生

 

何を隠そう、私はグレタ・ガーウィグが映画で演じる主人公たちが苦手だ。

『フランシス・ハ』『マギーズ・プラン』『29歳からの恋とセックス』。ちょっと個性的で、自己中心的で、大人になりきれない、いわゆるこじらせ系の困った女性たち。見るたびに、またこれか…とげんなりしてしまう。

もともとインディー映画出身で、自分の個性を役に多いに投影してきた人だろうし、彼女自身が脚本を書くこともあるので、まさにあの感じがグレタ・ガーウィグその人自身なんだろうとは思っていました。

そんな彼女が初めてメガホンをとった半自伝的映画『レディ・バード』。

また地雷を踏むかもしれないという恐怖を抱きながらも、シアーシャ・ローナンティモシー・シャラメといったキャストに惹かれて視聴とあいなりました。

 

あらすじ

2002年、カリフォルニア州サクラメント。閉塞感漂うこの町で窮屈な日々を送るクリスティン。堅苦しいカトリック系高校に通う彼女は、自分のことをレディ・バードと称し、何かと反発しては苛立ちを募らせていた。とくに口うるさい母親とはことあるごとに衝突してしまう。大学進学を巡っても、大都会ニューヨークに行きたい彼女は地元に残ってほしい母親と喧嘩して大騒動に。そんな中、ダニーという好青年のボーイフレンドができるクリスティンだったが…。

allcinemaより一部引用http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=362657

 

感想(ネタバレ)

結論から言うと、シアーシャ・ローナン演じる主人公はやっぱり女子高生版グレタ・ガーウィグでした!のっけからエキセントリックな行動を働き、感情のまま発言、自分の話ばかりで親友の話は聞かない、男のために親友を乗り換える…などなど、非常に自分本位な主人公。やっぱりな!でもまあ、グレタ・ガーウィグの自伝的作品なんでそれは当然といえば当然のこと。今回は高校生ということもあり、若さゆえの未熟さというふうにも見えるので、それほど見ていてイラっとするようなことはありませんでした。

あと、シアーシャ・ローナンが俄然ラブリー・ボーンな良い子属性なタイプなので、その個性に中和されて良い感じになってたと思います。単純に笑顔がかわいい陽気な子にも見えるし。

しかし、痛い。痛い主人公です。映画だからそこまで違和感はなかったけど、冷静に考えてみると自分にレディ・バードという名前をつけて、人にそう呼んでもらおうとしている時点でアレです。田中幸子って名前の日本人が「明日から幸子じゃなくてお蝶夫人って呼んでね☆」って言ってるのと同じです。同じです。

(ちなみにこのレディ・バードっていう意味を辞書で調べてみると、てんとう虫のことらしいですね。だから主人公の髪の色も赤と黒なんでしょうか。あと、この言葉は聖母マリアのことを指すのにも使われてるし、みだらな女とかそういう意味もあるそう)

でもこの若さ特有の痛さというのは誰にでもあるもので、過去の自分を振り返って死にたくなるあれやこれやや、無様な青春を思い出させてくれます。(やめてくれ)

映画はかっこいい男の子との恋愛あれこれや、友情といったものをはさみながら、基本的には母と娘の物語と言えます。窮屈な地元から離れ都会に行きたい娘、お金もないし十分な志望動機もないのに行かせたくない母親。ちょっとしたことで反発しあう二人ですが、この親子のケンカ描写はすっごくリアリティありました。母と娘ってだいたいあんな感じです。

プラス、私も主人公と同じように田舎で育ち都会に出てきたので、共感できる部分もありました。それほど地元のことを好きとは思ってなかったはずなのに、故郷のことを他人に無下にされるとちょっとムッとするとか。

 

主人公が恋する二人の男の子として登場するのは、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』のルーカス・ヘッジスと『君の名前で僕を呼んで』のティモシー・シャラメ

(関係ないけど、マンチェスター・バイ・ザ・シーのことを「マンチェスター倍刺し」と脳内変換する癖がついてしまっているのでどうにかしたい)

ルーカス・ヘッジス君は無口な少年のイメージがあったけど(『スリー・ビルボード』もそうだったし)、本作では、学内ミュージカルにいそしむ柔和な好青年を演じていてイメージが一新。全然違うタイプもできるのかと舌を巻きました。対するティモシー・シャラメ君は、クールだけどどこか糠に釘な男の子を倦怠感ある雰囲気で演じていました。ティモシー君は今の時点でも色気あるけど数年後にどういう男へと成長するのかが楽しみ。

ちなみに二人の出てる二作の感想も書いてるので置いときます。

www.minimal-akino.com www.minimal-akino.com

 

最初にグレタ・ガーウィグの演じる主人公が苦手だと書きましたが、この映画を観ていて、そのことについても少し考えました。

本作の主人公もだけど、グレタ・ガーウィグ的主人公は、大人になりきれないこじらせ系という見方以外にも、自由で無軌道という見方ができます。まず思考が先に来てしまう自分とはまったく違うタイプです。きっとそういう自分にはない無軌道さがうらやましい、というのがあるのではないか。うん、きっとある。

そしてグレタ・ガーウィグは彼女自身のキャラクターを役に投影しているのだろうと書いたけど、ただそれだけではないはずです。自分の個性を客観的に見て、それを表現に昇華することのできる人だからこそ、このキャリアを築いているわけで。そういうことを考えていたら、今後はグレタ・ガーウィグ的主人公も好きになれるかもしれないと思いました。

サンドラ・ブロック主演、Netflix映画『バード・ボックス』感想

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Netflixオリジナル映画「バード・ボックス」より 出典:映画.com

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Netflixに登録してるくせにあまりNetflixオリジナル映画って観てないな…ってことで、軽い気持ちでちょっと気になっていた本作を観てみました。

サンドラ・ブロックが出てるってくらいで、事前情報ほとんどなしの鑑賞。

結論から言うと、ハラハラ系の終末もの映画で、ご都合主義的な設定なものの、時間を忘れて没頭できる映画でした。これ系の映画を観たのが久しぶりだったんで、飽きずに観れたというのもあるかもしれません。『ミスト』とかそういうタイプの映画です。

 

あらすじ

思いがけず子どもを身ごもったアーティストのマロリー(サンドラ・ブロック)は、ある日突然訪れた世界の終焉と人類滅亡の危機に直面する。残された幼い命を守れるのは彼女だけ。生き残るためにできることは決して“その闇“を見ないこと。マロリーは決死の逃避行を決意する―。

 Filmarksより引用https://filmarks.com/movies/81591

 

感想 

子供がかわいい

予告編(5分特別映像)を見てみてください。二人の子供がやたらとかわいいのです。

かわいい子供が出ていればどんな映画でもたいてい楽しめるということに最近気付き、自分でもそんな自分をちょっとどうかなって思っています。決して子供好きをアピールしているわけではありません。

しかもこの予告編の冒頭にもあるように、母親のサンドラ・ブロックが、鬼気迫る様子で必死に説明をしているショットから、さあその相手は?ってなると、こんなに幼い年ごろのかわいらしい坊やと少女が映されるんですよ。しかもきょとんとした顔して。いや、笑うしかない。二人のサイズ感まで完璧です。ここで私はこの映画に持っていかれてしまいました。

 

ハラハラドキドキ

ホラーな印象のすっかりついたサラ・ポールソンの暴走シーンにもあるように、「‟それ”を見ると死ぬ」という、どこかで聞いたことのある設定で話が進んでいき、どこからともなく逃れてきた人々が家の中に立てこもります。そこでこういう映画の醍醐味である、「住民トラブル」も巻き起こっていきます。ジョン・マルコヴィッチや『ムーン・ライト』のトレヴァンテ・ローズなど、役者もなかなかに豪華。

面白かったのは、“それ”を見ても死なない人がいる、という設定。 軽いネタバレになるかもしれないのでそれがどういう人かは割愛しますが、いい感じに怖さを追加してくれます。

あと、主人公が妊婦であることの面白みが生かされたシーンもあり、そこも結構笑えました。

 

見ることを制限された状況から、「見ること」について考える映画

サンドラ・ブロック演じる主人公は、死んだ父親の影響もあってか、もともと他人との間に距離を取ろうとする人間でした。お腹に身籠った子供を養子に出そうかとすら考えます。そんな彼女がこの世界の終末をきっかけにどう変化していくのか?というのが一つのテーマになってます。

<バード・ボックス=鳥かご>というタイトルが示すとおり、狭い鳥かごの中に入っている主人公が、見ることを極端に制限された状況に追い込まれて初めて<本当に世界を見ること>を知っていく。そんな映画です。サンドラ・ブロックは『ゼロ・グラビティ』と結構重なる役でした。

監督はスサンネ・ビアというデンマーク人の女性監督で、かつてラース・フォン・トリアーのドグマ方式で映画を撮っていた人です。『しあわせな孤独』という初期の作品を観たことがあったけど、交通事故の被害者の恋人が、加害者女性の旦那さん(マッツ・ミケルセン!)と不倫をするというなかなかアンモラルな話でした。本能を抑えられない人間たちを描き、マッツ・ミケルセン演じる医者なんかはどうしようもなく哀れで情けない男でした。

もともとドラマを撮るのが得意な人のようなので、そのあたりのエモーショナルさが本作の味付けにもなってるんだと思います。

他の作品に好きな俳優が結構出てるようなので今後観てみようと思います。

『ボヘミアン・ラプソディー』感想

今更ながら『ボヘミアン・ラプソディー』を観ました。

基本的に今更ながらな映画レビューばかりですみません。

 

 

あらすじ

1970年、ロンドン。ライブ・ハウスに通っていた若者フレディ・マーキュリーは、ギタリストのブライアン・メイとドラマーのロジャー・テイラーのバンドのボーカルが脱退したと知り自らを売り込む。二人はフレディの歌声に心を奪われ共にバンド活動をし、1年後、ベーシストのジョン・ディーコンが加入。バンド名は<クイーン>に決まり、4人はアルバムを制作し、シングル「キラー・クイーン」が大ヒット。個性的なメンバーの革新的な挑戦によって、その後もヒット曲が次々に生み出され、フレディは“史上最高のエンターテイナー”とまで称されるようになる。しかし、栄光の影で次第にフレディはメンバーと対立し孤独を深めていくのだった…。

 公式サイトより引用 http://www.foxmovies-jp.com/bohemianrhapsody/

 

感想

観る前のQUEENとの個人的な距離感

まず、典型的な断り書きとしてQUEENとの鑑賞前の距離感について。

QUEENに関しては、二十代前半くらいの頃に「JEWELS(ジュエルズ)」というベストアルバムを借りて、上がる名曲の数々にすげえええってなって、しばらくの間リピートしていました。さらに記憶を辿れば、今は亡きヒース・レジャーの主演映画『ロック・ユー!』をDVDで観ていて、挿入歌の「We Will Rock You」を聴いたのがQUEENとの最初の出会いでした。そのときもこの曲かっけー!ってなったのを覚えています。あとは、ロンドンオリンピックの閉会式にQUEENが出てきたときは興奮しました。

基本的にUKロックが好きだったので、QUEENはそのなかの好きなバンドの一つ、という感じで、まったく知らないわけではないけど、ベスト盤しか聴いてないし、ましてやバンドの歴史なんかにも全くもって疎いです。フレディ・マーキュリーが同性愛者でエイズで亡くなったことはもちろん知ってましたがそのくらいの知識でした。

 

雑多な感想まとめ

さて、そんな私が本作『ボヘミアン・ラプソディー』を観た雑多な感想をまとめると、

  • やっぱりQUEENの曲は名曲が多い
  • フレディの出自や、出っ歯だったことを知らなかった
  • フレディが女性と付き合ってたことを知らなかった
  • 名前だけじゃなくて番号交換くらいしてくれても良かったんじゃ…
  • ロジャー・テイラー(ドラマー)役の人、かわいい顔してんな
  • フレディ以外のメンバー3人がみんな良識的な人たちで好感が持てる
  • ライブシーンが圧巻
  • ラミ・マレックにフレディが憑依している…!
  • しかし、ドラマ部分は割と平凡だったかも
  • しかし、ライブシーンが圧巻なのでそれはもうどうでもいい
  • ドンッストッピーナアアアウ(熱唱)

  < 完 >

 

最高の瞬間で終わるのが良い

とにかくライブシーンの圧巻っぷりに尽きます。この映画のスタートとクライマックスをライヴ・エイドのシーンにしたのは正解中の正解ですね。アーティストの最高の瞬間で突き抜けてくれて本当に良かったです。

こういうアーティストや芸術家畑の人たちの伝記映画によくあるのが、私生活の不幸や破滅的な生活にスポットライトを当てすぎてて、陰気な作品になることです。陰気になるだけならまだ良いんですが、映画の制作者が、その人物の人生をつまらないものだったように断定して描くことがあります。例えば作家のフランソワーズ・サガンの伝記映画『サガン 悲しみよこんにちは』では、サガンは作家としては成功したかもしれないが、私生活は寂しい人生だった…と感じさせて終わる映画でした。こういう映画に遭遇するたび、なんであんたがそんなこと決めるんだよって本当にイライラするんですよね(笑)。特に作家だと、その人の本当の部分は内側にあって、だから小説を書いて表現してるのに、そこに描かれてるもので判断せずに外側だけを見てる。別に私生活の不穏を描いてもいいけど、まずその人の表現をきちんと描いてからにしてくれ!って本当に思います。

そういう思いが常々あったんで、ステージ上の本当に美しい、最高の瞬間を切り取って終わる本作にはとても溜飲が下がる思いがしました。

椎名林檎がNIPPONという曲で歌っています。「あの世へ持っていくさ、至上の人生、至上の絶景」と。もうまさにこういうことじゃないでしょうか。

 

映画の感想を外れてちょっと熱くなってしまって、後で読んだら多分恥ずかしいやつです。終わります。

 

『スリー・ビルボード』感想(ネタバレなし)~データから考える俳優賞W受賞の凄さ~

スリー・ビルボードやっと観ました。

フランシス・マクドーマンドサム・ロックウェルウディ・ハレルソンと好きな俳優が勢揃いで、しかも評価も高かったんで早く観たかった作品。

娘をレイプの末に殺された母親が出した看板を発端に、話が予想のつかぬ具合に進んでいく、脚本の面白さがブラボーでした。

 

 

 あらすじ

アメリカのミズーリ州の田舎町を貫く道路に並ぶ、3枚の広告看板。そこには、地元警察への批判メッセージが書かれていた。7カ月前に何者かに娘を殺されたミルドレッドが、何の進展もない捜査状況に腹を立て、警察署長にケンカを売ったのだ。署長を敬愛する部下や、町の人々から抗議を受けるも、一歩も引かないミルドレッド。町中が彼女を敵視するなか、次々と不穏な事件が起こり始め、事態は予想外の方向へと向かい始める……。

公式サイト(http://www.foxmovies-jp.com/threebillboards/)より引用

 

感想(ネタバレなし)

監督&脚本のマーティン・マクドナーの力量

この映画は本当に脚本が良い。マーティン・マクドナーの作品は前作『セブン・サイコパス』を観ていたけど、正直そのときは凝った話を書く人だとは思ったけど、映画としてそんなに面白かったと思えなかったんですよね。あんまり覚えてないけど、昔の手書きの日記によると「二つの話が絡み合ったストーリーの映画になってる。監督の映画への愛は伝わるが、そんなに面白くはなかった」というあまり中身のない淡白な感想しか残っていませんでした(笑)(ちなみに映画への愛っていうのは、主人公たちが映画館で北野映画を観ていたり、役名がキエシロフスキだったり、映画オマージュが散りばめられた作品だったため)。

しかしところがですよ、本作『スリー・ビルボード』の出来の素晴らしいことといったら!なんか急にギアチェンジしてませんか!?ちょっともう一度『セブン・サイコパス』を見直す必要があるかもしれない。

最初に書いたように脚本が良いんです。まあ私のような素人は脚本のことなんて本当はたいしてよく分かってないんですけど、この人の「よくある脚本とは一線を画そう」という姿勢は、ある程度映画を観てれば誰でも分かるはずです。既視感満載の映画は観たくない!独自のものを提示してくれる作品こそ尊い!っていうのが私の映画観であり、このブログのテーマなので、そこにまさにぴったりくる映画が観れて嬉しいことこの上なし。そういう意味では『セブン・サイコパス』も独特だったんだけど、本作では脚本のディテールの細かさがパワーアップしてるのが良かったんだろうなと。

話が予想のつかない方向に行く意外性だけではなく、「どデカい看板に被害者家族が警察を批判する広告を打ち出す」という設定自体も今までになくて良いですよね。3つの看板のビジュアルとしての存在感もこの映画の大きな力になってるし。そこから警察、広告会社、地域住人を交えて、それぞれの在り方に沿った脚本が展開されていきます。脚本に意外性を出すためだけに用意された出来事で展開されていくのではなく、基本的に、登場人物の性格や信念によって話が動いていく。これが良いのです。

こういう面白い脚本の作品に出会えることが映画ファンの醍醐味だなと改めて感じられました。

 

アカデミー賞主演女優賞助演男優賞、W受賞の凄さ(データあり)

本作はキャストを観ただけでひゃっほ~いとテンションが上がる映画ですが、作品の主要人物となる、フランシス・マクドーマンド演じる女主人公と、サム・ロックウェル演じるバカ警官の人間味溢れる役柄は、役者にとって本当に演じがいのあるものだったと思います。実際に、フランシス・マクドーマンドが二度目の主演女優賞を受賞、サム・ロックウェルが初ノミネートで助演男優賞を受賞しました。

今まであまり意識したことはなかったんですが、アカデミー賞で、同一作品から俳優賞が二人出ることって実はそんなに多くないのです。調べてみたところ、2000年以降のアカデミー賞では、本作を入れても4作品しか該当作がありませんでした。

2017年・第90回
主演女優賞■『スリー・ビルボードフランシス・マクドーマンド
助演男優賞■『スリー・ビルボードサム・ロックウェル

2010年・第83回   

助演男優賞■『ザ・ファイター』 クリスチャン・ベイル

助演女優賞■『ザ・ファイター』 メリッサ・レオ

2004年・第77回
主演女優賞■『ミリオンダラー・ベイビーヒラリー・スワンク

助演男優賞■『ミリオンダラー・ベイビーモーガン・フリーマン

2003年・第76回
主演男優賞■『ミスティック・リバーショーン・ペン
助演男優賞■『ミスティック・リバーティム・ロビンス

allcinema参照(http://www.allcinema.net/prog/award_top.php?num_a=1

 

この4作のなかに二つも作品が含まれてるクリント・イーストウッドの凄さはとりあえず置いといて(笑)、『スリー・ビルボード』は2010年の『ザ・ファイター』から実に7年ぶりのダブル受賞作品ということになります。しかも『ザ・ファイター』が助演のW受賞なのに対して、『スリー・ビルボード』は、主演と助演での受賞です。

さらに、ここが一番大事なのですが、サム・ロックウェルは助演でノミネートされているものの、実質的には主役級のウェイトのあるたいへん重要な役柄を演じていました。実質主演が2人です。つまり、『スリー・ビルボード』は、主役級の役柄の2人が、ともに魅力的かつ印象的な演技を残して評価された、ということになります。映画を観れば、そこに文句はつけられません。一人の人間と人間の感情が絡み合い、相互に作用した作品だからこそ成しえた結果でしょう。こういう作品はなかなかありません。

 

フランシス・マクドーマンドは『ファーゴ』を観て、女性の強さや優しさ、底にある弱さを表現してくれるかっこいい女優だなと思いましたが、本作も監督が彼女に当て書きしたと言うように、その個性が出まくっていました。何か心の奥にあるものをグッと噛みこらえて我慢している口元が印象的で、頑固だけど生きとし生けるものへの優しさを持っています。そして、クソみたいな相手には言葉によっても行動によっても暴挙を働きます。迷いがなくて最高です。自分勝手な人にもなりかねないところを脚本と彼女の絶妙なバランスで人間的に仕上げています。

 

そしてサム・ロックウェル!『チャーリーズ・エンジェル』の悪役を観て以降、私はこの人の癖のある魅力の虜になってしまい、ファンになりました。普通に色気もあるしかっこいいとも思っています。そんなサム・ロックウェルがついに本作でオスカーを獲得し、だいぶ報われました。だってそれまで一度もノミネートされなかったのがおかしい。この年のアカデミー賞では主演男優賞に同じく大好きなゲイリー・オールドマンが選ばれ、この2人の受賞に私は歓喜いたしました。私のなかでこの2人は同じジャンルの好きな俳優に組み込まれています。サム・ロックウェルは本作でも、持ち前のアホキャラクター、謎の陽気さ、切れたらヤベェ奴、意外と繊細、破滅的、といった個性を十分に発揮しておりました。本当に良い役が来て良かった!

 

上述の2人以外にも、ウディ・ハレルソンジョン・ホークスなど、イカした俳優たちが見事に作品を彩ります。あと、広告屋を演じたケイレブ・ランドリー・ジョーンズも非常に良かったですね。いや、本当にこの映画はキャラクターが丁寧に作られてて最高でした。

 

『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』感想~元スケヲタ目線から見たトーニャ・ハーディング

フィギュアスケート史の汚点として刻まれる"ナンシー・ケリガン襲撃事件"の顛末を描いた『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』。

監督は『ラースと、その彼女』のクレイグ・ギレスピー。主人公のトーニャ・ハーディングを演じるのは『スーサイド・スクワッド』などの美人女優マーゴット・ロビーです。

 

あらすじ

アメリカの貧困家庭で生まれた少女トーニャ・ハーディング。母親のラヴォナは彼女のスケートの才能に気付き、スケーターとして成功させて貧困から抜け出そうとコーチの元を訪れ、トーニャのスケート人生がスタートする。厳しい母親の元で叱咤されながらも、やがて頭角を現していく彼女だったが、母親との不和やDV夫との暴力合戦に生活は荒れ狂う。そして、スケーターとしてのライバル、ナンシー・ケリガンを不利にするために仕掛けた夫のある作戦が彼女の人生を完全に狂わせていく…。

 

感想(ネタバレなし)

当時を知らない元スケヲタによる事件の印象

ナンシー・ケリガン襲撃事件」って世間的にどれくらい有名なのだろう。当時リアルタイムでこのニュースを見た人なら当然知ってる話だったりするんだろうけど、40歳以下くらいの年代だとフィギュアスケートファンでない限り、なかなか知る機会もないんじゃないでしょうか。

私は一時期フィギュアスケート一色の生活を送っていたときがありまして、そのときにトーニャ・ハーディングという人を知り、自動的に「ナンシー・ケリガン襲撃事件」なるものも知り、Wikipediaでこの事件のことを調べました。そのときの感想は「ま、まじかよ。超怖いんですけどこの夫婦」と、映画さながらの事件に戦慄したことを覚えています。

今はあまりスケートを見れてないから元スケヲタと名乗ろうと思いますが(スケート好きな人は本当に熱心で詳しい人が多いから、自分みたいなのが元スケヲタと名乗ることも間違ってる気もするが…)、一応この事件をあと聞きで知っていたフィギュアスケート好きとしての立場での感想になります。

トーニャ・ハーディングのスケーターとしての凄さ

トーニャ・ハーディングは、伊藤みどりと同じ時代の選手で、伊藤みどりに次いで世界で2番目にトリプルアクセルを成功させた女子選手です。この90年代初頭の時代に、同時期にトリプルアクセルを飛べる選手が二人もいたことの凄さたるや。言わずもがな、トリプルアクセルはこれまでに女子で9人しか成功した人が居ない超・超・難度の高い技です(9人という数字はぐぐって調べた)。

以前にトリプルアクセル動画を見ていたときに思ったハーディングの印象は、ダイナミックなジャンパーだなーというものでした。伊藤みどりがちょっと尋常じゃないくらい高さのあるジャンプを飛ぶ化け物なので、少しかすんでしまう感は拭い切れないですが、歴代の選手たちと比べても遜色ない、もしくは上を行くようなトリプルアクセルを飛びます。ちなみに浅田真央ちゃんは綺麗で柔らかいアクセルを飛ぶけど、上述の二人は迫力のあるアクセルジャンプの持ち主。このタイプは女子にはなかなか居ません。(ここでは直接関係ないけど、真央ちゃんのような柔らかく美しい3Aを飛べる人も他に居ないし、選手としての期間のほとんどで綺麗な3Aを飛び続けた尋常じゃない選手が浅田真央です)

なんだかトリプルアクセルに関する話が長くなってしまったけど、とにかく、トリプルアクセルが飛べることは本当に凄いことなんだよ!ってことが言いたいわけです。

この作品は、ユーモアを織り交ぜて、トーニャ・ハーディングとその周囲の人たちを軽妙なタッチで描き出した作品なんで伝わってきづらいですけど、彼女がトリプルアクセルを飛ぶのには相当な努力と汗と涙があったはずです。スポ根映画じゃないからそこは描かれなかったけど、また別のアングルとしての彼女も存在します。

スケート好きとして、彼女の努力や成功したときの喜びが分かるから、映画のなかで3Aを決めただけで涙が出てくる。育ちも口も悪くて、事件の顛末といい尊敬できないとこだらけなのにも関わらず、3Aを成功させた瞬間の彼女には心から感動してしまうわけです。

(おまけに3Aはリスクの割にはリターン(得点)が少ない。だけどスポーツ選手として、より上のものを目指して3Aに挑戦する選手たちはそれだけで美しい。採点には出ない輝きがあります)

 

感想(ネタバレあり)

ナンシー・ケリガン襲撃事件の描かれ方

この映画は、当事者たちのインタビューをもとに構成されているようで、そのインタビュー自体も役者たちが映画のなかで演じています。なので、人によって言うことが全然違う(笑)。夫とハーディングの言い分も違うし、夫とその友達ショーンの言い分も違う。

事件の概要としては、「五輪出場を決める全米選手権の会場で、試合前にナンシー・ケリガン選手が乱入者によって膝を殴打されて怪我をし欠場に追い込まれてしまった」というものです。その事件を画策した者としてハーディングの夫が逮捕されて、ハーディングも事件に関わったとして、結果的に法的措置を受けます。

なにぶん当事者たちは自分の罪を軽くするためにそれぞれ言うことが違うんで真相は藪の中ですが、実際に襲撃したのは、夫の友達であるショーンのそのまた友達というのは間違いないようです。

襲撃を指示したショーンは、実家暮らしの引き込もりニートのクズ野郎で、自分の冴えない人生を直視せず、「俺はスパイだ」っていうのを口癖に犯行に至りました。この男のクズっぷりが本当にお見事で、演じたポール・ウォルター・ハウザーはこの役をやるために生まれてきたんじゃないかってくらいのはまり役です。あのふてぶてしい顔とクズっぷりときたら、類を見ません。この人を見るだけでも観る価値ありです。

 

マーゴット・ロビーアリソン・ジャネイについて

役によって全然印象が違う女優さんですが、本作のハーディング役によってまた新たな一面を見せたマーゴット・ロビーの演技も見どころでした。ハーディングが3Aを決めた瞬間の感動は、彼女の演技によるものも大きかったと思います。スケートシーンもどこからどこまでが本人か正確なところは分かりませんが、違和感を感じさせず頑張ってたんじゃないかと思います。何よりハーディングっぽさというものが画面にちゃんと表れてた。

そして本作でアカデミー賞助演女優賞を受賞したアリソン・ジャネイNetflix映画『タルーラ~彼女たちの事情~』でも魅力的な女優さんだなあと思いましたが、本作はまた凄い母親役で存在感を放ってました。「(演技が)終わった後の表情が見たい」と言っていた場面が非常に印象的でした。彼女がどんな気持ちで言っていたのか本当のところは分からないけど。

 

トータルの感想としては、以前この襲撃事件を知ったときの印象が強すぎて、ちょっと事件をポップに描きすぎてるんじゃないかというふうにも思えてしまいます。ナンシー・ケリガンかわいそすぎやろ、と。絶対的に怖い事件やろ、と。まあ、でもこの映画はそういう映画ではないので仕方ないかなと思うし、私自身も短い字面でしかこの事件のことを知らなかったので、言える立場じゃないなと思いました。別の観点からこの事件とハーディングのことを知れるきっかけになって良かったなって思います。

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『君の名前で僕を呼んで』感想

君の名前で僕を呼んでをついに観たぞー!

イタリアの美しい風景を背景にした、美しい少年と青年のひと夏の恋…。この前情報のみで「美しいものに美しいものを掛け合わせたものが見れるのか、それは見なくては… 」と思っていました。特に、私はイタリアを舞台にした作品が好きで、パオロ・ソレンティーノ監督の『グレート・ビューティー/追憶のローマ』は生涯ベスト級に好きな作品だったりします。

しかしながら、本作の鑑賞前は美しい景色と美しい少年が見れるというくらいにしか期待していなかったのが正直なところ。実際に観てみたら、それだけではない一生心に残る作品とあいなりまして、もうブラボーとしか言いようがないです。

あらすじ

1983年、北イタリア。17歳のエリオは、毎年家族と過ごす夏の避暑地で、大学教授の父が招いたアメリカ人の大学院生オリヴァーと出会う。自信家で自由奔放なオリヴァーに最初は反発を覚えたエリオだったが、同じ別荘で寝食し、一緒に過ごすうちに、彼への気持ちはいつしか恋へと変わっていく…。

 

感想 (ネタバレなし)

ルカ・グァダニーノ監督の映像美と丹念なしつこさ

まず、監督のルカ・グァダニーノについて。前情報をほとんど入れてなかったため、監督が誰かも分からず観ていたけど、別荘の室内装飾の洗練に「ええな、この美しさ…」と恍惚となりながら、以前観たことのある『ミラノ、愛に生きる』という映画の邸宅の洗練を思い出してました。後から同じ監督だったということが分かり超納得。上品さと気高さのあるセンスで、イタリア人の上流階級の洗練を味わわせてくれます。フィルモグラフィを見ると、『メリッサ・P』『ミラノ、愛に生きる』『胸騒ぎのシチリア』と日本で公開された過去作はすべて観ていました。『胸騒ぎのシチリア』も映像がひたすら美しかった。

あとで書くことと重なるかもしれないけど、この人の演出ってちょっと独特というか、丹念なしつこさみたいなものがあるんですよね。それが登場人物の心情を浮き立たせたり、観る者に想像させたりするのに一役買ってるんだと思います。一つの行為をやたらと長く丹念に映し出す。でもって、演出がめっちゃ細かい。主役の二人は多分相当に動きの指示を出されたんじゃないかと想像します。病的に細かいと言ってもいいと思う(笑)

監督の最新作の『サスペリア』(リメイク版)は未見だからこれは今後絶対観ようと思います。もう「この人の作品なら観たい!」と思わせる映像作家であることは間違いなし。

 

名匠ジェームズ・アイヴォリーによる脚色 

ジェームズ・アイヴォリーが脚本を手掛けているというのも驚きました。アカデミー賞の脚色賞も受賞してるというのに、どれだけ情報仕入れてないのかよっていう。ジェームズ・アイヴォリーといえば何と言っても『 日の名残り』。そして『モーリス』や『眺めのいい部屋』『ハワーズ・エンド』といったE・M・フォースター原作の映画化作品の監督としても有名です。ちなみに自分が監督した作品以外の脚本を手掛けたのはこれが初めてらしい。

原作は未読だけど、公式サイトの監督インタビューによると、原作が回想型のストーリーテリングなのに対して、映画は現在進行形のストーリーテリングを採用したとのこと。この映画の瑞々しさと、主人公たちへの感情の持ってかれ方はそこからくるものも大きいかもしれない。

ジェームズ・アイヴォリーは『日の名残り』のように、あまり台詞に頼らない「無言の機微」のある作品を手掛けてきた人だから、本作での脚色もお手のもので、監督もやりやすかったんじゃないかなと想像できますね。そして、ジェームズ・アイヴォリー自身も男性のパートナーと公私ともに長年連れ添った人でもあるので、脚本にリアリティが増したのかもしれません。

 

感想 (ネタバレあり)

裏腹な態度がじれったくも可愛い

ここからネタバレありの感想です。この映画の肝は、なんといってもティモシー・シャラメ演じるエリオと、アーミー・ハマー演じるオリヴァーの恋の駆け引き。いや、駆け引きと言うにはあまりにも純粋で瑞々しくて、なかなか上手い言葉が見つからない。

まず、オリヴァーがエリオ一家の別荘へやってきたときの二人の様子を振り返ろう。大学教授であるエリオの父の弟子みたいな形で、男らしいアメリカ人青年オリヴァーがやってくるのですが、エリオはいわばホストとして迎える側。オリヴァー青年の身の回りのことを世話してやったり、市街地へ一緒に出掛けてあげたりします。しかしそこはオリヴァーも遊びたいざかりの自立心ある24歳。まるでエリオを子供扱いするように、「もうここからはさよなら」って感じで勝手に一人で行動したりして、対等な相手として見てないっていう態度をさんざんっぱら取ります。

それに対してエリオは当然、嫌な奴って反発しますが、どうにもこうにもオリヴァーのことが気になってしょうがない。確かに自分に置き換えて考えてみても、17歳と24歳っていう年齢のあいだには子供と大人のボーダーラインが横たわっているような気がして、恋愛感情とかじゃないにしても17歳からしたら気になる存在になりますよね。相手が魅力的な人物なら余計に。女の自分でも、その頃は年上の親戚の綺麗なお姉さんとかと仲良くなりたいとかいう気持ちがあったような気がします。エリオの場合は、相手にされないことへの反発がなおさら恋を加速させたのかなと。

でもエリオはとてもかわいいやつです。ちょっとケンカしたかと思いきや、次の瞬間には素直な可愛らしい態度を取ったりします。自分のなかにある反発と好きって気持ちがぶつかり合いながらも、好きが勝つから素直に相手に向かっていけるのかなと思います。

そして、男と女の場合なら、もっと簡単に相手への気持ちを表せるところが、男同士という関係性がもどかしさを倍増させます。最初のうちは何を伝えるにも遠回し。相手の気持ちを探りながら徐々にそれっぽい言葉を出していきます。二人が自転車で出かけた像のある辺りのシーンなんて、分かるようで分からないようで分かる言葉によって、微妙な塩梅で互いの気持ちを確かめ合うなんとも言えないシーンになってました。

 

君の名前で僕を呼んで」というタイトルが表すもの

見る前は、このタイトルの意味があんまり分かってなかったんですよね。でも実際に彼らがこの言葉を発するシーンに遭遇して、そういうことか!って思ったし、すごくロマンチックで泣きそうになりました。二人が初めてそういう関係になったあとに自分の名前で相手を呼び合うわけですが、二人が一つになったあとだからこそ、互いの名前で呼び合うことに多幸感と美しさが生まれます。ああ、もう二人は心の底から一つになったのだなと。いやあ、こんな恋したいものです。

 

アーミー・ハマーティモシー・シャラメについて

アーミー・ハマーは『ソーシャル・ネットワーク』のウィンクルボス兄弟の印象が強すぎて、正直この役に合うのかな?って思ってたのが正直なところ。この映画でも、最初はアメリカ人青年の不遜さが外見から醸し出されすぎてて、本当にこの人とティモシー・シャラメ演じる少年が恋仲になるの?って思ってました。しかし、ストーリーが進んでいくうちに、この青年のうわべの姿からは想像できない側面が見え隠れするようになって、次第に少年の一挙一動に翻弄されていくさまが描かれていきます。最初は余裕ぶってたのに、いつの間にかエリオにめちゃくちゃ夢中になっちゃってる感じが伝わってきてキュンキュンしました。アーミー・ハマー良かったです。

ティモシー・シャラメ君は、本当に自然体というか、あの年頃の子の子供っぽさも、素直さも、根の純真さも、ちょっとした我儘さも役に投影していて、二人の恋を本当に初々しく見せてくれたと思います。角度やそのときの心情によって顔の印象が幼く見えたり、可愛く見えたり、大人っぽく見えたり、かっこよく見えたりして、最後まで全く飽きなかった。体で「好き!」っていう迸りを表現してるのもとても良かったです。

 

「ひと夏の恋」から一歩先へ行ったテーマを提示してくれるたくましさ

そしてこの映画が「ありがちなひと夏の恋物語」に終わっていない点が、何よりこの作品の素晴らしいところです。私はここに本っ当に感動してしまいました。

もう<ネタバレあり>として書いてるとこなので、最後まで言ってしまいますが、オリヴァーと別れる日が来てしまい、初恋の終わりに涙するエリオに対して掛ける父親の言葉が含蓄があって本当に素晴らしいんです。思わずメモったので引用させてもらいます。

 

「人は早く立ち直ろうと自分の心を削り取り、30歳までにすり減ってしまう。新たな相手に与えるものが失われる。だが、何も感じないこと、感情を無視することはあまりに惜しい」

 ―『君の名前で僕を呼んで』本編より―

 

男と別れて傷心の息子に、こんな言葉をくれる父親がかつて居ただろうか。

お父さん自身の後悔の念もあり、息子にはそんな思いをしてほしくないとカミングアウトまでして伝えてくれた思い。もう美しすぎて涙が止まらん。

そしてラスト、ひとしきり涙を流し痛みをかみしめたあとに見せるティモシー・シャラメの力強い表情。この流れが本当に胸に突き刺さった。初恋物語は世にたくさんあるけど、父親の言葉とラストの主人公の表情がこの映画を一歩先へ押し上げてるように感じました。一つのテーマを提示してくれる映画としてのたくましさ。

私はこれからもこういう映画をたくさん見たい!

 

 

『20センチュリー・ウーマン』感想(若干のネタバレ含む)

記念すべき1記事目は、Netflixで観たマイク・ミルズ監督作20センチュリー・ウーマン

あらすじ

1979年、カリフォルニア州サンタバーバラが舞台。シングルマザーのドロシアと思春期盛りの息子ジェイミーの暮らす家には、個性豊かな面々が間借りしており、不思議な組み合わせの一家のようなものを構成していた。元ヒッピーの中年男、パンクな女性写真家アビー、そして、ときどき家にやってくるジェイミーのかわいい幼馴染ジュリー。製図屋として働く男勝りなドロシアは、息子を独自の方法で育ててきたが、変化の兆しが見えだした15歳の息子を前に、自分の子育てに自信が持てなくなってくる。そうして、彼の傍にいる2人の違った女性アビーとジュリーに彼の教育係になってほしいと頼むのだった…

感想

今までマイク・ミルズ監督の映画は『サム・サッカー』『人生はビギナーズ』と観てきたけど、この映画が一番好きだし、何だか輝いて見えました。それもそのはずで、どうやら監督の半自伝的映画らしい。彼の少年期を支えた女性たちへの温かな視線が終始あって、心地良い余韻の残る映画だった。

元旦那が残した車が駐車場で燃えるシーンから始まる、唐突な見せ方もグッド。これから独自の物語が始まっていくんだという期待ができます。何か特別なことが起こるわけではないけど、一つ一つのエピソードに何とも言えない愛らしさと可笑しみがあるんですよねこの映画。基本的に、登場人物への視線が優しい。でもちょっとこいつ変だぞっていう雰囲気も出してるから、それが良いのです。

そして大事なのが1979年という時代背景。当時の人々の生活や流行りの音楽、時代の空気感をこれでもかってほどに画面に登場させながら、どこかへ向かおうとしている狭間感を演出します。

ビリー・クラダップ演じる便利屋の中年男は、昔、愛した女性に合わせてヒッピー生活を送っていたが、表面上では馴染めても、本当にはヒッピーにはなれなかったと吐露します。ヒッピーたちのボヘミアンな時代が終わり、かつてその空気を吸っていた男が、今も独り身で半分ヒッピーな感じを残しながら生きる。そうするとひとつ屋根の下ロマンス的なことも生まれるのか生まれないのか。ジェイミー君からは尊敬されず、女性陣からは全体的にポンコツ扱いされてる男だけど、それなりに女性からはモテるようです。ビリー・クラダップとても良い味出してました。

そして母親役を演じたのがアネット・ベニング。『華麗なる恋の舞台で』のアネット・ベニングが大好きで、彼女が出てると知ればなるべく観るようにしてる女優さんです。そういえば、『キッズ・オールライト』でもレズビアン女性を男勝りに演じてたけど、男勝りな雰囲気が似合う人ですね(あと『キッズ・オールライト』が好きな人はこの映画も好きかもしれない)。

アネット・ベニング演じるドロシアは40代でジェイミー君を生み、旦那と別れてから一度もデートをしてこなかったことを、ジェイミー君に不満がられます。お母さんが男と付き合うことを嫌がる息子ではなくて、お母さんが自分にばかり手を焼き、彼女自身の人生を生きてないことに不満がるって優しすぎませんかジェイミー君。ジェイミー君を演じたのはルーカス・ジェイド・ズマン君っていう子らしい。もう、この子が可愛いのなんの!15歳の割には幼くて、顔はまだ大人に全然なりきってないのに、性に関してはだんだんと目覚めてきたりしてさ。でも女ばかりに囲まれて育ってきたからフェミニスティック思考の強い子で、女性のことを理解しようと努めているという尊さ。こんな子なかなかいないぞ。小悪魔的女神エル・ファニングに恋してるけど、エル・ファニングには友達以上恋人未満で通されてて、またいじらしい。基本的にエル・ファニングが演じる女の子は自分のことしか考えてない子が多いから注意が必要だよと忠告してあげたい。

それからこの映画を観てて一番惚れ惚れしたのは、実は何よりインテリアの可愛さ!これが本当に死ぬほど可愛いのだ。ちょっとミニマルで、丸みを帯びた大きなランプとか、存在感あってすんごい可愛い。大きなランプは不自然なほどに意図的に画面に散りばめられていました。監督のこだわりですかね。当時実際ああいう感じのスタイルが流行ったんですかね。なんにしろ、部屋のインテリアの参考にしたいと思える可愛さが詰まっていたので、それも含めてまだ観てない人には観てもらいたい作品です。

 

ユニーク・ブラボー・シネマとは?

『ユニーク・ブラボー・シネマ』とはなんぞや。

ブログ名を考えるのに三日三晩かけ、ようやく辿り着いたこの名前。それは、「ユニークでブラボーな映画を紹介したい」「映画の中にあるユニークさを称賛したい」という、きわめてシンプルな欲求を表したブログタイトルなのでした。元々キャッチコピーを考える才能がゼロの私は、時間をかけてもこんなパンチのないタイトルしか出てきませんでした。これが私の精一杯です。

で、ユニークの定義は?

ユニークな映画が好き。ユニークな台詞が好き。ユニークな監督が好き。ユニークな俳優が好き。etc...

…君がユニーク好きなのは分かった、じゃあ君にとってのユニークは?ってことです。そもそもユニークってどういう意味?ってことです。ユニークという言葉を日本語に言いかえると「唯一無二」らしい。…唯一無二!そう、まさしくこれが私の言いたかったことです。しかし、何も奇をてらった映画のことだけを指してるわけじゃありません。 

  • 「うお、こんなシーン初めて観た!」
  • 「この演出力たるや…」
  • 「バカだなーwww」
  • 「ちょ、どんなセンス(笑)」
  • 「ずるい!」
  • 「この映画、ちょっと変じゃない???」
  • 「真面目な映画なのに何故か笑える」
  • 「この映画は唯一無二だ…(←まんま)」

等々、こういう感情を呼び起こしてくれる映画たちが、世界中に数多く存在します。もう、そう感じさせてくれるだけでユニークな映画なのです。これが、ユニークの定義です。

今まで映画を観てきて思うのは、初めての感覚をもたらしてくれる映画はたいてい良い映画だなってことです。逆に、つまんないなって思う映画は、どこかで観たことあるシーン、どこかで観たことのある台詞、どこかで観たことのある演出…というふうに、既視感満載のものであることが多いです。何も新しいものがない。なので、ちょっとでも新しいものがあれば、それは私にとって尊い、ユニークな映画になります。

あとは、自分の経験や知見のなさがその映画に溢れるユニークを見過ごしてしまっているということも往々にしてあります。私の場合は、若い頃に観ていまいちだった映画を大人になって見直したら、全然読み取れてなかった!と愕然とすることが多々。きっと今も分かんないことだらけなはず。映画を存分に味わいつくし楽しみたい、 その欲求を叶えるには自分の感性を鍛えることが大事なのでは。それにはユニークな映画を観ることが最適だ。そうだ、ユニークな映画を観よう!