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『パットン大戦車軍団』感想 生まれる時代を間違えた男の第二次世界大戦

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映画『パットン大戦車軍団』より 出典:IMDb

PCが壊れたのでしばらくブログの更新ストップします。起動中にPC本体を床に倒すという阿保をやらかしました…とりあえずこの記事は保存しといて良かった…

第二次世界大戦で活躍したアメリカ軍のジョージ・S・パットン将軍を描いた『パットン大戦車軍団』を鑑賞しました。

アカデミー賞で7部門(作品賞、監督賞、主演男優賞、脚本賞、美術賞、音響賞、編集賞)を受賞した作品。

監督は『猿の惑星』などのフランクリン・J・シャフナーです。

 

作品概要

Patton/1970年製作/172分/アメリカ
監督:フランクリン・J・シャフナー
脚本:フランシス・フォード・コッポラ、エドマンド・H・ノース
出演:ジョージ・C・スコット、カール・マルデン、マイケル・ストロング、カール・ミヒャエル・フォーグラー他
 

あらすじ

1943年、アフリカ戦線。ロンメル率いるドイツ軍に惨敗したアメリカ軍を立て直すために呼ばれたのは、戦争を生きがいとする猛将、ジョージ・S・パットン。経験不足の兵士たちに規律を叩き込み、奇襲を仕掛けてくるドイツ軍を迎え撃つ…。ヨーロッパ戦線にまでかけた、パットンのWW2波乱万丈記。 

 

感想

結論から言えば、私はこの映画大好物だったし、パットンという人にも非常に魅力を感じたんですが、鑑賞後ワクワクとレビューサイト等に目を通したら、芳しくない評価も多くて、嘘だろ!?と意外でした。低評価の理由は、主に「邦題から想像したもの(派手な戦争アクション)と違った」や、「パットンという人が好きじゃない」「エピソードの羅列でつまらない」というもの。

かくいう私も、『パットン大戦車軍団』というタイトルに「おいおい、どんな戦車軍団の戦いが見れるんだ」と鼻の穴を広げる勢いで観始めたんですけど、戦闘シーンの見せ場は前半であっさりと終了し、パットンという稀有な将軍個人を描いた作品となっていることが途中で分かりました。

戦争や歴史に疎い私は恥ずかしながらこのジョージ・S・パットンという人を全く知らず。でも、この映画を観て、そりゃ映画化されるのも当然だと言えるくらい面白い人物で、第二次大戦の主役の一人でもあったことが分かりました。この人の映画化権獲ったらそらもう勝ちだわというレベル。その強烈な個性の分、嫌いな人も居るんだろうけど、好き嫌いが分かれる人というのは何にしても魅力的なものを持っていると言えるので、やはり映画のキャラクターとしては最高なのだ。

博学な軍事知識と豪胆な戦い方によって功績を上げる反面、戦争神経症の兵士を手袋で叩いて臆病者だと叱責したり、スピーチでの失言によって祖国のマスコミに叩かれてしまうパットン将軍。それで部隊の指揮を解任されたり謹慎処分みたいな形になってしまうのだけど、戦場を愛し、戦うことを求め続けるパットン将軍は復帰に躍起になり、ヨーロッパ戦線への突入では今までの憂さを晴らすように猛進する。

戦争史が好きで、ナポレオンなどかつての英雄たちや悠久の戦場に思いを馳せ、自らを彼らと重ね合わせるパットン将軍は、ドイツ軍の大尉が形容したようにまさに「化石のようなロマンチックな騎士」なのである。そして彼は武人としての誇りと精神性を詠う抒情詩人でもある。死を前に戦った兵士には敬意を払い額にキスを捧げ、戦いの末の戦場を見渡して「I love it.」と呟くような男だ。古代から続く英雄たちの美しき戦場の夢や、男のロマン、それは20世紀という時代にはもはや過去のものでしかなくなっていた。ヒューマニズム溢れる時代には全くそぐわない男だった。そんな、生まれた時代を間違えた男の相剋の物語に夢中にならないわけがない。

そしてその脚本を書いたのは若き日のフランシス・フォード・コッポラ。並みの脚本家ならただの戦争好きとしてのパットン将軍の話になってもおかしくないと思うが、この2年後に『ゴッドファーザー』のような男の美学が詰まった映画を撮る巨匠コッポラなので、美意識と夢に満ちた男としてパットンという人物を見事に浮き上がらせることに成功している。コッポラだからこそできたキャラクター造形なんじゃないかと。醜聞によって自分のアイデンティティを外から揺るがされそうになったパットンが、教会で神に祈りを捧げ自らの魂を汚されまいとする詩を詠み、そこから兵士たちへのスピーチへ向かう一連の場面がたまらない。自分自身は変えられないし変えたくないが、時代に適応しなければ愛する戦場にも行けないというジレンマ。

そのパットンという男の一番の理解者で、ある意味語り部とも言える男をドイツ軍側に置いている脚本の作りも良い。軍師ロンメルの部下である情報将校、シュタイガー大尉が実際に会ったこともないパットン将軍を見事に形容してくれる。

ドイツ軍と連合国軍の将軍たちの戦いを描いた映画でもあるため、あまり戦争知識のない私からしたら、こういう将軍たちが居たのかーということも知れるし、人間模様も面白かった。連合国軍の中でもイギリスとアメリカの舵の取り合いみたいなのがあったり、米軍の中でも将軍の優劣で一喜一憂したり。

ちなみにヨーロッパ戦線の戦い方の部分で、作中、地図を出しながら作戦を練っている場面もあったりしたけど、いまいち地理関係が分かりにくいため、パソコンで調べながら視聴。便利な時代になったものだ。でもやっぱりこういう映画はちゃんと理解しながら見るとより面白い。

パットンを演じたジョージ・C・スコットを始め、ブラッドリー司令官役のカール・マルデンなど、俳優陣も皆素晴らしかった。ジョージ・C・スコットはニヤッとした笑い方が印象的だな。

ちなみに主演男優賞は受賞拒否したらしいけど、そのアカデミー賞授賞式でその場に居ないジョージ・C・スコットの名前を読み上げるゴールディー・ホーンが可愛かったのでついでに貼っとく。


George C. Scott winning Best Actor for "Patton"

 

『パットン大戦車軍団』という邦題から最初に連想した映画とは全然違ったけど、厳しい気候に耐えながら何百キロという長距離を短時間で突き進むパットン指揮下の部隊は本当に凄いと思うので、もう大戦車軍団で相違ないと思いました。3時間弱の映画だけど全く長さを感じなかった。パットンみたいな人を見ると愛おしくなる。

 

 

パットン大戦車軍団  (字幕版)