ユニーク・ブラボー・シネマ

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『レディ・バード』感想~グレタ・ガーウィグ的、痛い女子高生

 

何を隠そう、私はグレタ・ガーウィグが映画で演じる主人公たちが苦手だ。

『フランシス・ハ』『マギーズ・プラン』『29歳からの恋とセックス』。ちょっと個性的で、自己中心的で、大人になりきれない、いわゆるこじらせ系の困った女性たち。見るたびに、またこれか…とげんなりしてしまう。

もともとインディー映画出身で、自分の個性を役に多いに投影してきた人だろうし、彼女自身が脚本を書くこともあるので、まさにあの感じがグレタ・ガーウィグその人自身なんだろうとは思っていました。

そんな彼女が初めてメガホンをとった半自伝的映画『レディ・バード』。

また地雷を踏むかもしれないという恐怖を抱きながらも、シアーシャ・ローナンティモシー・シャラメといったキャストに惹かれて視聴とあいなりました。

 

あらすじ

2002年、カリフォルニア州サクラメント。閉塞感漂うこの町で窮屈な日々を送るクリスティン。堅苦しいカトリック系高校に通う彼女は、自分のことをレディ・バードと称し、何かと反発しては苛立ちを募らせていた。とくに口うるさい母親とはことあるごとに衝突してしまう。大学進学を巡っても、大都会ニューヨークに行きたい彼女は地元に残ってほしい母親と喧嘩して大騒動に。そんな中、ダニーという好青年のボーイフレンドができるクリスティンだったが…。

allcinemaより一部引用http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=362657

 

感想(ネタバレ)

結論から言うと、シアーシャ・ローナン演じる主人公はやっぱり女子高生版グレタ・ガーウィグでした!のっけからエキセントリックな行動を働き、感情のまま発言、自分の話ばかりで親友の話は聞かない、男のために親友を乗り換える…などなど、非常に自分本位な主人公。やっぱりな!でもまあ、グレタ・ガーウィグの自伝的作品なんでそれは当然といえば当然のこと。今回は高校生ということもあり、若さゆえの未熟さというふうにも見えるので、それほど見ていてイラっとするようなことはありませんでした。

あと、シアーシャ・ローナンが俄然ラブリー・ボーンな良い子属性なタイプなので、その個性に中和されて良い感じになってたと思います。単純に笑顔がかわいい陽気な子にも見えるし。

しかし、痛い。痛い主人公です。映画だからそこまで違和感はなかったけど、冷静に考えてみると自分にレディ・バードという名前をつけて、人にそう呼んでもらおうとしている時点でアレです。田中幸子って名前の日本人が「明日から幸子じゃなくてお蝶夫人って呼んでね☆」って言ってるのと同じです。同じです。

(ちなみにこのレディ・バードっていう意味を辞書で調べてみると、てんとう虫のことらしいですね。だから主人公の髪の色も赤と黒なんでしょうか。あと、この言葉は聖母マリアのことを指すのにも使われてるし、みだらな女とかそういう意味もあるそう)

でもこの若さ特有の痛さというのは誰にでもあるもので、過去の自分を振り返って死にたくなるあれやこれやや、無様な青春を思い出させてくれます。(やめてくれ)

映画はかっこいい男の子との恋愛あれこれや、友情といったものをはさみながら、基本的には母と娘の物語と言えます。窮屈な地元から離れ都会に行きたい娘、お金もないし十分な志望動機もないのに行かせたくない母親。ちょっとしたことで反発しあう二人ですが、この親子のケンカ描写はすっごくリアリティありました。母と娘ってだいたいあんな感じです。

プラス、私も主人公と同じように田舎で育ち都会に出てきたので、共感できる部分もありました。それほど地元のことを好きとは思ってなかったはずなのに、故郷のことを他人に無下にされるとちょっとムッとするとか。

 

主人公が恋する二人の男の子として登場するのは、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』のルーカス・ヘッジスと『君の名前で僕を呼んで』のティモシー・シャラメ

(関係ないけど、マンチェスター・バイ・ザ・シーのことを「マンチェスター倍刺し」と脳内変換する癖がついてしまっているのでどうにかしたい)

ルーカス・ヘッジス君は無口な少年のイメージがあったけど(『スリー・ビルボード』もそうだったし)、本作では、学内ミュージカルにいそしむ柔和な好青年を演じていてイメージが一新。全然違うタイプもできるのかと舌を巻きました。対するティモシー・シャラメ君は、クールだけどどこか糠に釘な男の子を倦怠感ある雰囲気で演じていました。ティモシー君は今の時点でも色気あるけど数年後にどういう男へと成長するのかが楽しみ。

ちなみに二人の出てる二作の感想も書いてるので置いときます。

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最初にグレタ・ガーウィグの演じる主人公が苦手だと書きましたが、この映画を観ていて、そのことについても少し考えました。

本作の主人公もだけど、グレタ・ガーウィグ的主人公は、大人になりきれないこじらせ系という見方以外にも、自由で無軌道という見方ができます。まず思考が先に来てしまう自分とはまったく違うタイプです。きっとそういう自分にはない無軌道さがうらやましい、というのがあるのではないか。うん、きっとある。

そしてグレタ・ガーウィグは彼女自身のキャラクターを役に投影しているのだろうと書いたけど、ただそれだけではないはずです。自分の個性を客観的に見て、それを表現に昇華することのできる人だからこそ、このキャリアを築いているわけで。そういうことを考えていたら、今後はグレタ・ガーウィグ的主人公も好きになれるかもしれないと思いました。