ユニーク・ブラボー・シネマ

ユニークさに欠ける凡人が、映画に溢れるユニークを味わいつくし喝采したい映画ブログ

『君の名前で僕を呼んで』感想

君の名前で僕を呼んでをついに観たぞー!

イタリアの美しい風景を背景にした、美しい少年と青年のひと夏の恋…。この前情報のみで「美しいものに美しいものを掛け合わせたものが見れるのか、それは見なくては… 」と思っていました。特に、私はイタリアを舞台にした作品が好きで、パオロ・ソレンティーノ監督の『グレート・ビューティー/追憶のローマ』は生涯ベスト級に好きな作品だったりします。

しかしながら、本作の鑑賞前は美しい景色と美しい少年が見れるというくらいにしか期待していなかったのが正直なところ。実際に観てみたら、それだけではない一生心に残る作品とあいなりまして、もうブラボーとしか言いようがないです。

あらすじ

1983年、北イタリア。17歳のエリオは、毎年家族と過ごす夏の避暑地で、大学教授の父が招いたアメリカ人の大学院生オリヴァーと出会う。自信家で自由奔放なオリヴァーに最初は反発を覚えたエリオだったが、同じ別荘で寝食し、一緒に過ごすうちに、彼への気持ちはいつしか恋へと変わっていく…。

 

感想 (ネタバレなし)

ルカ・グァダニーノ監督の映像美と丹念なしつこさ

まず、監督のルカ・グァダニーノについて。前情報をほとんど入れてなかったため、監督が誰かも分からず観ていたけど、別荘の室内装飾の洗練に「ええな、この美しさ…」と恍惚となりながら、以前観たことのある『ミラノ、愛に生きる』という映画の邸宅の洗練を思い出してました。後から同じ監督だったということが分かり超納得。上品さと気高さのあるセンスで、イタリア人の上流階級の洗練を味わわせてくれます。フィルモグラフィを見ると、『メリッサ・P』『ミラノ、愛に生きる』『胸騒ぎのシチリア』と日本で公開された過去作はすべて観ていました。『胸騒ぎのシチリア』も映像がひたすら美しかった。

あとで書くことと重なるかもしれないけど、この人の演出ってちょっと独特というか、丹念なしつこさみたいなものがあるんですよね。それが登場人物の心情を浮き立たせたり、観る者に想像させたりするのに一役買ってるんだと思います。一つの行為をやたらと長く丹念に映し出す。でもって、演出がめっちゃ細かい。主役の二人は多分相当に動きの指示を出されたんじゃないかと想像します。病的に細かいと言ってもいいと思う(笑)

監督の最新作の『サスペリア』(リメイク版)は未見だからこれは今後絶対観ようと思います。もう「この人の作品なら観たい!」と思わせる映像作家であることは間違いなし。

 

名匠ジェームズ・アイヴォリーによる脚色 

ジェームズ・アイヴォリーが脚本を手掛けているというのも驚きました。アカデミー賞の脚色賞も受賞してるというのに、どれだけ情報仕入れてないのかよっていう。ジェームズ・アイヴォリーといえば何と言っても『 日の名残り』。そして『モーリス』や『眺めのいい部屋』『ハワーズ・エンド』といったE・M・フォースター原作の映画化作品の監督としても有名です。ちなみに自分が監督した作品以外の脚本を手掛けたのはこれが初めてらしい。

原作は未読だけど、公式サイトの監督インタビューによると、原作が回想型のストーリーテリングなのに対して、映画は現在進行形のストーリーテリングを採用したとのこと。この映画の瑞々しさと、主人公たちへの感情の持ってかれ方はそこからくるものも大きいかもしれない。

ジェームズ・アイヴォリーは『日の名残り』のように、あまり台詞に頼らない「無言の機微」のある作品を手掛けてきた人だから、本作での脚色もお手のもので、監督もやりやすかったんじゃないかなと想像できますね。そして、ジェームズ・アイヴォリー自身も男性のパートナーと公私ともに長年連れ添った人でもあるので、脚本にリアリティが増したのかもしれません。

 

感想 (ネタバレあり)

裏腹な態度がじれったくも可愛い

ここからネタバレありの感想です。この映画の肝は、なんといってもティモシー・シャラメ演じるエリオと、アーミー・ハマー演じるオリヴァーの恋の駆け引き。いや、駆け引きと言うにはあまりにも純粋で瑞々しくて、なかなか上手い言葉が見つからない。

まず、オリヴァーがエリオ一家の別荘へやってきたときの二人の様子を振り返ろう。大学教授であるエリオの父の弟子みたいな形で、男らしいアメリカ人青年オリヴァーがやってくるのですが、エリオはいわばホストとして迎える側。オリヴァー青年の身の回りのことを世話してやったり、市街地へ一緒に出掛けてあげたりします。しかしそこはオリヴァーも遊びたいざかりの自立心ある24歳。まるでエリオを子供扱いするように、「もうここからはさよなら」って感じで勝手に一人で行動したりして、対等な相手として見てないっていう態度をさんざんっぱら取ります。

それに対してエリオは当然、嫌な奴って反発しますが、どうにもこうにもオリヴァーのことが気になってしょうがない。確かに自分に置き換えて考えてみても、17歳と24歳っていう年齢のあいだには子供と大人のボーダーラインが横たわっているような気がして、恋愛感情とかじゃないにしても17歳からしたら気になる存在になりますよね。相手が魅力的な人物なら余計に。女の自分でも、その頃は年上の親戚の綺麗なお姉さんとかと仲良くなりたいとかいう気持ちがあったような気がします。エリオの場合は、相手にされないことへの反発がなおさら恋を加速させたのかなと。

でもエリオはとてもかわいいやつです。ちょっとケンカしたかと思いきや、次の瞬間には素直な可愛らしい態度を取ったりします。自分のなかにある反発と好きって気持ちがぶつかり合いながらも、好きが勝つから素直に相手に向かっていけるのかなと思います。

そして、男と女の場合なら、もっと簡単に相手への気持ちを表せるところが、男同士という関係性がもどかしさを倍増させます。最初のうちは何を伝えるにも遠回し。相手の気持ちを探りながら徐々にそれっぽい言葉を出していきます。二人が自転車で出かけた像のある辺りのシーンなんて、分かるようで分からないようで分かる言葉によって、微妙な塩梅で互いの気持ちを確かめ合うなんとも言えないシーンになってました。

 

君の名前で僕を呼んで」というタイトルが表すもの

見る前は、このタイトルの意味があんまり分かってなかったんですよね。でも実際に彼らがこの言葉を発するシーンに遭遇して、そういうことか!って思ったし、すごくロマンチックで泣きそうになりました。二人が初めてそういう関係になったあとに自分の名前で相手を呼び合うわけですが、二人が一つになったあとだからこそ、互いの名前で呼び合うことに多幸感と美しさが生まれます。ああ、もう二人は心の底から一つになったのだなと。いやあ、こんな恋したいものです。

 

アーミー・ハマーティモシー・シャラメについて

アーミー・ハマーは『ソーシャル・ネットワーク』のウィンクルボス兄弟の印象が強すぎて、正直この役に合うのかな?って思ってたのが正直なところ。この映画でも、最初はアメリカ人青年の不遜さが外見から醸し出されすぎてて、本当にこの人とティモシー・シャラメ演じる少年が恋仲になるの?って思ってました。しかし、ストーリーが進んでいくうちに、この青年のうわべの姿からは想像できない側面が見え隠れするようになって、次第に少年の一挙一動に翻弄されていくさまが描かれていきます。最初は余裕ぶってたのに、いつの間にかエリオにめちゃくちゃ夢中になっちゃってる感じが伝わってきてキュンキュンしました。アーミー・ハマー良かったです。

ティモシー・シャラメ君は、本当に自然体というか、あの年頃の子の子供っぽさも、素直さも、根の純真さも、ちょっとした我儘さも役に投影していて、二人の恋を本当に初々しく見せてくれたと思います。角度やそのときの心情によって顔の印象が幼く見えたり、可愛く見えたり、大人っぽく見えたり、かっこよく見えたりして、最後まで全く飽きなかった。体で「好き!」っていう迸りを表現してるのもとても良かったです。

 

「ひと夏の恋」から一歩先へ行ったテーマを提示してくれるたくましさ

そしてこの映画が「ありがちなひと夏の恋物語」に終わっていない点が、何よりこの作品の素晴らしいところです。私はここに本っ当に感動してしまいました。

もう<ネタバレあり>として書いてるとこなので、最後まで言ってしまいますが、オリヴァーと別れる日が来てしまい、初恋の終わりに涙するエリオに対して掛ける父親の言葉が含蓄があって本当に素晴らしいんです。思わずメモったので引用させてもらいます。

 

「人は早く立ち直ろうと自分の心を削り取り、30歳までにすり減ってしまう。新たな相手に与えるものが失われる。だが、何も感じないこと、感情を無視することはあまりに惜しい」

 ―『君の名前で僕を呼んで』本編より―

 

男と別れて傷心の息子に、こんな言葉をくれる父親がかつて居ただろうか。

お父さん自身の後悔の念もあり、息子にはそんな思いをしてほしくないとカミングアウトまでして伝えてくれた思い。もう美しすぎて涙が止まらん。

そしてラスト、ひとしきり涙を流し痛みをかみしめたあとに見せるティモシー・シャラメの力強い表情。この流れが本当に胸に突き刺さった。初恋物語は世にたくさんあるけど、父親の言葉とラストの主人公の表情がこの映画を一歩先へ押し上げてるように感じました。一つのテーマを提示してくれる映画としてのたくましさ。

私はこれからもこういう映画をたくさん見たい!