ユニーク・ブラボー・シネマ

ユニークさに欠ける凡人が、映画に溢れるユニークを味わいつくし喝采したい映画ブログ

『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』感想~元スケヲタ目線から見たトーニャ・ハーディング

フィギュアスケート史の汚点として刻まれる"ナンシー・ケリガン襲撃事件"の顛末を描いた『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』。

監督は『ラースと、その彼女』のクレイグ・ギレスピー。主人公のトーニャ・ハーディングを演じるのは『スーサイド・スクワッド』などの美人女優マーゴット・ロビーです。

 

あらすじ

アメリカの貧困家庭で生まれた少女トーニャ・ハーディング。母親のラヴォナは彼女のスケートの才能に気付き、スケーターとして成功させて貧困から抜け出そうとコーチの元を訪れ、トーニャのスケート人生がスタートする。厳しい母親の元で叱咤されながらも、やがて頭角を現していく彼女だったが、母親との不和やDV夫との暴力合戦に生活は荒れ狂う。そして、スケーターとしてのライバル、ナンシー・ケリガンを不利にするために仕掛けた夫のある作戦が彼女の人生を完全に狂わせていく…。

 

感想(ネタバレなし)

当時を知らない元スケヲタによる事件の印象

ナンシー・ケリガン襲撃事件」って世間的にどれくらい有名なのだろう。当時リアルタイムでこのニュースを見た人なら当然知ってる話だったりするんだろうけど、40歳以下くらいの年代だとフィギュアスケートファンでない限り、なかなか知る機会もないんじゃないでしょうか。

私は一時期フィギュアスケート一色の生活を送っていたときがありまして、そのときにトーニャ・ハーディングという人を知り、自動的に「ナンシー・ケリガン襲撃事件」なるものも知り、Wikipediaでこの事件のことを調べました。そのときの感想は「ま、まじかよ。超怖いんですけどこの夫婦」と、映画さながらの事件に戦慄したことを覚えています。

今はあまりスケートを見れてないから元スケヲタと名乗ろうと思いますが(スケート好きな人は本当に熱心で詳しい人が多いから、自分みたいなのが元スケヲタと名乗ることも間違ってる気もするが…)、一応この事件をあと聞きで知っていたフィギュアスケート好きとしての立場での感想になります。

トーニャ・ハーディングのスケーターとしての凄さ

トーニャ・ハーディングは、伊藤みどりと同じ時代の選手で、伊藤みどりに次いで世界で2番目にトリプルアクセルを成功させた女子選手です。この90年代初頭の時代に、同時期にトリプルアクセルを飛べる選手が二人もいたことの凄さたるや。言わずもがな、トリプルアクセルはこれまでに女子で9人しか成功した人が居ない超・超・難度の高い技です(9人という数字はぐぐって調べた)。

以前にトリプルアクセル動画を見ていたときに思ったハーディングの印象は、ダイナミックなジャンパーだなーというものでした。伊藤みどりがちょっと尋常じゃないくらい高さのあるジャンプを飛ぶ化け物なので、少しかすんでしまう感は拭い切れないですが、歴代の選手たちと比べても遜色ない、もしくは上を行くようなトリプルアクセルを飛びます。ちなみに浅田真央ちゃんは綺麗で柔らかいアクセルを飛ぶけど、上述の二人は迫力のあるアクセルジャンプの持ち主。このタイプは女子にはなかなか居ません。(ここでは直接関係ないけど、真央ちゃんのような柔らかく美しい3Aを飛べる人も他に居ないし、選手としての期間のほとんどで綺麗な3Aを飛び続けた尋常じゃない選手が浅田真央です)

なんだかトリプルアクセルに関する話が長くなってしまったけど、とにかく、トリプルアクセルが飛べることは本当に凄いことなんだよ!ってことが言いたいわけです。

この作品は、ユーモアを織り交ぜて、トーニャ・ハーディングとその周囲の人たちを軽妙なタッチで描き出した作品なんで伝わってきづらいですけど、彼女がトリプルアクセルを飛ぶのには相当な努力と汗と涙があったはずです。スポ根映画じゃないからそこは描かれなかったけど、また別のアングルとしての彼女も存在します。

スケート好きとして、彼女の努力や成功したときの喜びが分かるから、映画のなかで3Aを決めただけで涙が出てくる。育ちも口も悪くて、事件の顛末といい尊敬できないとこだらけなのにも関わらず、3Aを成功させた瞬間の彼女には心から感動してしまうわけです。

(おまけに3Aはリスクの割にはリターン(得点)が少ない。だけどスポーツ選手として、より上のものを目指して3Aに挑戦する選手たちはそれだけで美しい。採点には出ない輝きがあります)

 

感想(ネタバレあり)

ナンシー・ケリガン襲撃事件の描かれ方

この映画は、当事者たちのインタビューをもとに構成されているようで、そのインタビュー自体も役者たちが映画のなかで演じています。なので、人によって言うことが全然違う(笑)。夫とハーディングの言い分も違うし、夫とその友達ショーンの言い分も違う。

事件の概要としては、「五輪出場を決める全米選手権の会場で、試合前にナンシー・ケリガン選手が乱入者によって膝を殴打されて怪我をし欠場に追い込まれてしまった」というものです。その事件を画策した者としてハーディングの夫が逮捕されて、ハーディングも事件に関わったとして、結果的に法的措置を受けます。

なにぶん当事者たちは自分の罪を軽くするためにそれぞれ言うことが違うんで真相は藪の中ですが、実際に襲撃したのは、夫の友達であるショーンのそのまた友達というのは間違いないようです。

襲撃を指示したショーンは、実家暮らしの引き込もりニートのクズ野郎で、自分の冴えない人生を直視せず、「俺はスパイだ」っていうのを口癖に犯行に至りました。この男のクズっぷりが本当にお見事で、演じたポール・ウォルター・ハウザーはこの役をやるために生まれてきたんじゃないかってくらいのはまり役です。あのふてぶてしい顔とクズっぷりときたら、類を見ません。この人を見るだけでも観る価値ありです。

 

マーゴット・ロビーアリソン・ジャネイについて

役によって全然印象が違う女優さんですが、本作のハーディング役によってまた新たな一面を見せたマーゴット・ロビーの演技も見どころでした。ハーディングが3Aを決めた瞬間の感動は、彼女の演技によるものも大きかったと思います。スケートシーンもどこからどこまでが本人か正確なところは分かりませんが、違和感を感じさせず頑張ってたんじゃないかと思います。何よりハーディングっぽさというものが画面にちゃんと表れてた。

そして本作でアカデミー賞助演女優賞を受賞したアリソン・ジャネイNetflix映画『タルーラ~彼女たちの事情~』でも魅力的な女優さんだなあと思いましたが、本作はまた凄い母親役で存在感を放ってました。「(演技が)終わった後の表情が見たい」と言っていた場面が非常に印象的でした。彼女がどんな気持ちで言っていたのか本当のところは分からないけど。

 

トータルの感想としては、以前この襲撃事件を知ったときの印象が強すぎて、ちょっと事件をポップに描きすぎてるんじゃないかというふうにも思えてしまいます。ナンシー・ケリガンかわいそすぎやろ、と。絶対的に怖い事件やろ、と。まあ、でもこの映画はそういう映画ではないので仕方ないかなと思うし、私自身も短い字面でしかこの事件のことを知らなかったので、言える立場じゃないなと思いました。別の観点からこの事件とハーディングのことを知れるきっかけになって良かったなって思います。

ブログランキング・にほんブログ村へにほんブログ村