ユニーク・ブラボー・シネマ

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『スリー・ビルボード』感想(ネタバレなし)~データから考える俳優賞W受賞の凄さ~

スリー・ビルボードやっと観ました。

フランシス・マクドーマンドサム・ロックウェルウディ・ハレルソンと好きな俳優が勢揃いで、しかも評価も高かったんで早く観たかった作品。

娘をレイプの末に殺された母親が出した看板を発端に、話が予想のつかぬ具合に進んでいく、脚本の面白さがブラボーでした。

 

 

 あらすじ

アメリカのミズーリ州の田舎町を貫く道路に並ぶ、3枚の広告看板。そこには、地元警察への批判メッセージが書かれていた。7カ月前に何者かに娘を殺されたミルドレッドが、何の進展もない捜査状況に腹を立て、警察署長にケンカを売ったのだ。署長を敬愛する部下や、町の人々から抗議を受けるも、一歩も引かないミルドレッド。町中が彼女を敵視するなか、次々と不穏な事件が起こり始め、事態は予想外の方向へと向かい始める……。

公式サイト(http://www.foxmovies-jp.com/threebillboards/)より引用

 

感想(ネタバレなし)

監督&脚本のマーティン・マクドナーの力量

この映画は本当に脚本が良い。マーティン・マクドナーの作品は前作『セブン・サイコパス』を観ていたけど、正直そのときは凝った話を書く人だとは思ったけど、映画としてそんなに面白かったと思えなかったんですよね。あんまり覚えてないけど、昔の手書きの日記によると「二つの話が絡み合ったストーリーの映画になってる。監督の映画への愛は伝わるが、そんなに面白くはなかった」というあまり中身のない淡白な感想しか残っていませんでした(笑)(ちなみに映画への愛っていうのは、主人公たちが映画館で北野映画を観ていたり、役名がキエシロフスキだったり、映画オマージュが散りばめられた作品だったため)。

しかしところがですよ、本作『スリー・ビルボード』の出来の素晴らしいことといったら!なんか急にギアチェンジしてませんか!?ちょっともう一度『セブン・サイコパス』を見直す必要があるかもしれない。

最初に書いたように脚本が良いんです。まあ私のような素人は脚本のことなんて本当はたいしてよく分かってないんですけど、この人の「よくある脚本とは一線を画そう」という姿勢は、ある程度映画を観てれば誰でも分かるはずです。既視感満載の映画は観たくない!独自のものを提示してくれる作品こそ尊い!っていうのが私の映画観であり、このブログのテーマなので、そこにまさにぴったりくる映画が観れて嬉しいことこの上なし。そういう意味では『セブン・サイコパス』も独特だったんだけど、本作では脚本のディテールの細かさがパワーアップしてるのが良かったんだろうなと。

話が予想のつかない方向に行く意外性だけではなく、「どデカい看板に被害者家族が警察を批判する広告を打ち出す」という設定自体も今までになくて良いですよね。3つの看板のビジュアルとしての存在感もこの映画の大きな力になってるし。そこから警察、広告会社、地域住人を交えて、それぞれの在り方に沿った脚本が展開されていきます。脚本に意外性を出すためだけに用意された出来事で展開されていくのではなく、基本的に、登場人物の性格や信念によって話が動いていく。これが良いのです。

こういう面白い脚本の作品に出会えることが映画ファンの醍醐味だなと改めて感じられました。

 

アカデミー賞主演女優賞助演男優賞、W受賞の凄さ(データあり)

本作はキャストを観ただけでひゃっほ~いとテンションが上がる映画ですが、作品の主要人物となる、フランシス・マクドーマンド演じる女主人公と、サム・ロックウェル演じるバカ警官の人間味溢れる役柄は、役者にとって本当に演じがいのあるものだったと思います。実際に、フランシス・マクドーマンドが二度目の主演女優賞を受賞、サム・ロックウェルが初ノミネートで助演男優賞を受賞しました。

今まであまり意識したことはなかったんですが、アカデミー賞で、同一作品から俳優賞が二人出ることって実はそんなに多くないのです。調べてみたところ、2000年以降のアカデミー賞では、本作を入れても4作品しか該当作がありませんでした。

2017年・第90回
主演女優賞■『スリー・ビルボードフランシス・マクドーマンド
助演男優賞■『スリー・ビルボードサム・ロックウェル

2010年・第83回   

助演男優賞■『ザ・ファイター』 クリスチャン・ベイル

助演女優賞■『ザ・ファイター』 メリッサ・レオ

2004年・第77回
主演女優賞■『ミリオンダラー・ベイビーヒラリー・スワンク

助演男優賞■『ミリオンダラー・ベイビーモーガン・フリーマン

2003年・第76回
主演男優賞■『ミスティック・リバーショーン・ペン
助演男優賞■『ミスティック・リバーティム・ロビンス

allcinema参照(http://www.allcinema.net/prog/award_top.php?num_a=1

 

この4作のなかに二つも作品が含まれてるクリント・イーストウッドの凄さはとりあえず置いといて(笑)、『スリー・ビルボード』は2010年の『ザ・ファイター』から実に7年ぶりのダブル受賞作品ということになります。しかも『ザ・ファイター』が助演のW受賞なのに対して、『スリー・ビルボード』は、主演と助演での受賞です。

さらに、ここが一番大事なのですが、サム・ロックウェルは助演でノミネートされているものの、実質的には主役級のウェイトのあるたいへん重要な役柄を演じていました。実質主演が2人です。つまり、『スリー・ビルボード』は、主役級の役柄の2人が、ともに魅力的かつ印象的な演技を残して評価された、ということになります。映画を観れば、そこに文句はつけられません。一人の人間と人間の感情が絡み合い、相互に作用した作品だからこそ成しえた結果でしょう。こういう作品はなかなかありません。

 

フランシス・マクドーマンドは『ファーゴ』を観て、女性の強さや優しさ、底にある弱さを表現してくれるかっこいい女優だなと思いましたが、本作も監督が彼女に当て書きしたと言うように、その個性が出まくっていました。何か心の奥にあるものをグッと噛みこらえて我慢している口元が印象的で、頑固だけど生きとし生けるものへの優しさを持っています。そして、クソみたいな相手には言葉によっても行動によっても暴挙を働きます。迷いがなくて最高です。自分勝手な人にもなりかねないところを脚本と彼女の絶妙なバランスで人間的に仕上げています。

 

そしてサム・ロックウェル!『チャーリーズ・エンジェル』の悪役を観て以降、私はこの人の癖のある魅力の虜になってしまい、ファンになりました。普通に色気もあるしかっこいいとも思っています。そんなサム・ロックウェルがついに本作でオスカーを獲得し、だいぶ報われました。だってそれまで一度もノミネートされなかったのがおかしい。この年のアカデミー賞では主演男優賞に同じく大好きなゲイリー・オールドマンが選ばれ、この2人の受賞に私は歓喜いたしました。私のなかでこの2人は同じジャンルの好きな俳優に組み込まれています。サム・ロックウェルは本作でも、持ち前のアホキャラクター、謎の陽気さ、切れたらヤベェ奴、意外と繊細、破滅的、といった個性を十分に発揮しておりました。本当に良い役が来て良かった!

 

上述の2人以外にも、ウディ・ハレルソンジョン・ホークスなど、イカした俳優たちが見事に作品を彩ります。あと、広告屋を演じたケイレブ・ランドリー・ジョーンズも非常に良かったですね。いや、本当にこの映画はキャラクターが丁寧に作られてて最高でした。