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『追想』感想 シアーシャ・ローナン主演、若き新婚夫婦の切ない顛末

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(C)British Broadcasting Corporation / Number 9 Films (Chesil) Limited 2017

ふらっとシアーシャ・ローナンに惹かれて視聴した映画『追想』(2018)。

ほとんど前情報なしで観たのですが、『つぐない』の原作者イアン・マキューアンの『初夜』という小説の映画化で、マキューアン自身が脚本も手掛けているようです。『つぐない』の演技で13歳にしてアカデミー賞助演女優賞にノミネートされたシアーシャ・ローナンなので、この繋がりはなんか良いですね。

 

 

作品概要

On Chesil Beach/2018年製作/110分/イギリス
監督:ドミニク・クック
出演:シアーシャ・ローナン、ビリー・ハウル、アンヌ=マリー・ダフ、エイドリアン・スカーボロー、エミリー・ワトソン、サミュエル・ウェスト他

 

あらすじ

1962年、夏。バイオリニストとしての野心を秘めたフローレンスと歴史学者を目指すエドワード。偶然の出会いをきっかけに一瞬で恋に落ちた2人は、対照的な家庭環境などさまざまな困難を乗り越え、ついに結婚式の日を迎えた。式を終えた2人が新婚旅行へと向かった先は風光明媚なドーセット州のチェジル・ビーチ。幸せいっぱいでホテルにチェックインした2人の心に、数時間後に迫る初夜を上手く終えられるか、という不安が次第に重くのしかかっていくのだったが…。
allcinemaより引用

 

感想(ネタバレあり)

結婚初夜の失敗と時代背景

結婚初夜の出来事にスポットを当てたこの作品。

育った家庭環境の違いを乗り越えながらも、互いに愛し合い、心から惹かれ合っている若き男女が結婚。しかし、初夜の失敗で全てがフイになってしまうという、なんとも儚い関係を描いた映画でした。「結婚式から僅か6時間での婚姻破棄」…こう聞くと余計に痛ましさが増す…

昔、新婚旅行の旅先で相手の嫌な所が見えてケンカして別れるという「成田離婚」という言葉が流行った気がするけど、同じスピード離婚でもこれとはまた違うタイプの離婚です。

この映画の時代背景は62年のイギリス。ロックが隆盛してきた頃とはいえ、まだ時代の端境期で保守的な考えが残っていた時代。しかもこの主人公たちはともに真面目なタイプ。ビートニクに影響を受けているらしい彼のほうはちょっと先進的だけど、裕福な家庭で箱入り娘として育った彼女のほうは、性に関してまったくもって保守的です。

そんな二人なので、結婚式後の初夜がともに初体験。海辺のホテルにチェックインし、ぎこちない食事を経て、いざ、その行為を迎えますが、残念ながら上手くいかず。最初はただのお堅い二人ゆえの失敗かなって思って観ていたけど、実は彼女のほうには幼少期のトラウマがあることも暗示され、思っていたより根が深いものが原因でした。

そんなことは知らない彼のほうが、もう無理!ってなってしまって別れるに至るのだけど、彼が後年振り返るように、二人とももう少し大人だったら違った結果になっていたかもしれないと思わせる、切ない別れでした。あんなにお似合いの二人だったのにな。

下世話な話だけど、もしこれが婚前交渉だったらどうだったかとも考えてみた。彼女の方にトラウマがあるのは変わらないのだから、結果は同じだったかなという気もするけど、結婚後やってみてダメでしたって場合よりは、軌道修正が効く可能性があるのではないか。結婚後の場合はもうおしまいだ…っていう絶望感とショックも大きいだろうけど、婚姻前ならもう少し冷静に二人で話し合えたのではないかと思う。それで彼女のほうも自分のトラウマを受け入れる時間が作れたかもしれないし。そしてもう一人出てくるチャールズという男とは、そういうふうに関係を作って成功したんだろうと想像する。

だからやっぱり、彼ら二人にとっては保守的な時代がよくなかったのだろうなーという結論に至りました。

 

時代を映す音楽 

この映画で印象的だったのは、主人公たちの生きる3つの時代の移り変わりを音楽で表現していたこと。

60年代初頭の若き二人の時代には、チャック・ベリー。別れのあとレコードショップの店主になった彼に重なる音楽は、T・レックスの「20th Century Boy」で80年代へ移ったことを一瞬で示し、2007年の年老いた彼らの時代には、エイミー・ワインハウス。

やはり、時代背景というものが肝になってる作品なんだなと思ったし、その後の二人を描いた作品でもあるので、音楽で場面の時代が変わったよってことを映画的に表す手法と二重の役割を音楽に担わせていて面白かった。

あと、彼のほうがロック好きで、彼女のほうがクラシック音楽をやっているというのも、キャラクターを音楽で表していて非常に音楽に寄った映画になっていました。

 

チェジル・ビーチというロケーション

それともう一つ、この映画で印象的だったのが海岸沿いのロケーションでした。

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(C)British Broadcasting Corporation / Number 9 Films (Chesil) Limited 2017

このコロコロした丸い小石ばかりのビーチ。

冒頭に、この石のビーチをザクザクと並んで歩く二人のその歩みからして、色気のない二人というのが見て取れたし、その後別れの場所ともなるこのビーチのジャリジャリとした踏みごたえが二人の苦くて短い婚姻期間を象徴しているようで、素晴らしいロケーションだなーなんて思っていました。

そして後から原題(映画と小説両方)が「On Chesil Beach」というものだったと知り、まさにこのチェジル・ビーチという場所が元々の大事なモチーフになっていたようです。 イアン・マキューアン氏は小説を書く段階でこのビーチの特性を二人の心象風景にマッチさせて書いていたということだと思うので、映画の視覚的表現を経て観るとあまりにも完璧なロケーション設定で、すごいなと単純に感心してしまった。

ちなみにこのチェジル・ビーチは、イングランドの南西部、ドーセット州に存在するビーチらしい。綺麗なところだから、結婚式と新婚旅行を兼ねて訪れる新婚夫婦が多く居たりしたのかな。

 

そして最後に役者の話をすると、シアーシャ・ローナンはやはり良い子属性の子だなと思ったし、相手役のビリー・ハウルという俳優は初めて見たけど、こういう顔をしたドイツ人俳優を知っている気がするけど思い出せなくてもどかしかった。イギリス人だけどドイツ人に居そうな顔だ。

 

同じくシアーシャ・ローナン主演の『レディ・バード』の感想はこちら↓

www.minimal-akino.com

 

イアン・マキューアンの原作本も時間があれば読んでみたい↓ 

初夜 (新潮クレスト・ブックス)

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追想(字幕版)

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