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『婚約者の友人』感想~フランソワ・オゾン監督が描く「嘘も方便」

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(C)2015 MANDARIN PRODUCTION–X FILME–MARS FILMS–FRANCE 2 CINEMA-FOZ-JEAN-CLAUDE MOIREAU

フランソワ・オゾン監督の映画はなるべく追いかけるようにしていますが、まだ観ていなかった2017年公開の『婚約者の友人』 。

戦争で婚約者を亡くしたドイツ人女性のもとへ、元兵士のフランス人青年が現れることから始まるサスペンスタッチなドラマでした。では、感想です。

 

作品概要

Frantz/2016年製作/113分/フランス・ドイツ
監督・脚本:フランソワ・オゾン
出演:ピエール・ニネ、パウラ・ベーア、エルンスト・シュトッツナー、マリー・グルーバー、ヨハン・フォン・ビューロー他

 

あらすじ

戦後間もない1919年のドイツ。戦争で婚約者のフランツを亡くし、悲しみから立ち直れずにいるアンナはある日、フランツの墓の前で泣いている見知らぬ男性と出会う。アドリアンと名乗るその青年は、フランツと戦前のパリで知り合ったと明かす。フランツとの思い出話を聞き、2人の友情に心癒されていくアンナ。最初は敵国の人間と抵抗感を抱いていたフランツの両親も、アドリアンの人柄に触れるうち、いつしかこの息子の友人を温かく受け入れていくのだったが…。
allcinemaより引用http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=361352

 

感想(ネタバレあり)

ミステリー映画ではないけどサスペンスフルなストーリー展開は、これぞオゾンという巧みさでした。

フランス男がドイツへやってきて告白をする前半は、戦争の傷を描き出した教訓に満ちたドラマかに見えますが、女がドイツからフランスへ渡る後半になってグッとこの映画がなまめかしく輝き始めます。

フランス男がドイツを訪れる第一部、ドイツ女がフランスを訪れる第二部、と二部構成とも言える折り返し地点のある脚本が、作品に鮮やかさと鏡のような物語性を加えていました。

なんでもこの作品はモーリス・ロスタンという劇作家が書いた『私の殺した男』という戯曲が元ネタで、すでにエルンスト・ルビッチが一度映画化しているそうですが、本作の女性がフランスへ渡る後半部は完全にオゾンのオリジナルのようです。

一つの出来上がった作品をまったく別のものに作り変えたこの手腕は、女性の心理を描くのが上手いオゾンだからこそと言えそう。

一応物語を振り返ると、パウラ・ベーア演じるアンナというドイツ人女性は、婚約者フランツを戦争で亡くしますが、戦後彼女のもとへ訪れたフランス人男性へ恋心を抱いてしまいます。ピエール・ニネ演じるそのフランス人男性アドリアンは、戦争で殺してしまったドイツ軍兵士フランツの家族と婚約者の女性に、自身の罪を告白し許しを請うためにドイツへ渡ったわけですが、 フランツの友人と勘違いされてしまい、そのまま彼の家族らと親しくなってしまう。嘘を付き続けられなくなった彼はアンナにそのことを告白してフランスへ帰っていくわけです。

当然ここからアンナの心の葛藤が激しくなっていき、好きになった男がフィアンセを殺していた!しかし私はそれを知っても彼に好意を抱いたままだ!という状態。

で、手紙の返信が届かず彼の所在が不明になったことをきっかけにフランスまで彼を探す旅に出るわけです。

そこからの展開がまた良かった。一見、彼は自殺して亡くなったかに見せかけといて、裕福な実家でママンと幼馴染の恋人と暮らしているという結末。恋人いたんかい。しかもアンナの気持ちにも全く気付いていなかった。アンナの気持ちを知っても「僕の結婚式に参加してくれる?」とかピュアな目で聞くような坊ちゃんだ。そもそも、自分が罪の意識で苦しいからって相手側に全てを告白して許しを請おうとノコノコやってきたのもどうかと思ってはいたんですよね。(一方、彼の告白を聞いたアンナのほうはフランツの両親にはその秘密は隠したままでいた)

ついたままのほうが良い嘘もある。それがこの映画のテーマになってるわけですが、実際にオゾンは「嘘をテーマにした作品が撮りたい」ということから本作をスタートさせたそう。

アンナの場合は、彼のことが好きになってしまったから関係を終わらせないために婚約者の両親には真実を伝えなかったという面もあると思います。

嘘も方便。

本当にこれに尽きます。少女漫画にはよく「どんな嘘も絶対に許さない」系の女の子が出てきて、 付き合い始めたばかりの彼とのケンカからの仲直り⇒絆が深まる、という話に使われますが、こういう嘘を許さない系のキャラクターに幼い頃から違和感があったのでスッとした気分です。

そして監督自身もこの映画をミスリードさせる嘘を仕込んでいたのが面白かった。

アンナを演じたパウラ・ベーアは初めて観たけど落ち着いた演技ですごく良かった。ピエール・ニネは中性的でちょっと変わった雰囲気だけど、川で泳ぐシーンで脱いだら意外と上半身が鍛えられていてギャップがあったのが良かった。腹回りがクローズアップされて、脇腹の傷にアンナが気付く場面となっているが、彼のギャランドゥも映り込む。きっとオゾンはこのギャランドゥを撮りたかったのだろうと私は解釈している。

アンナに思いを寄せるクロイツという中年男性が嫌なやつとして光彩を放っていたことも最後に書き加えておきたい。