ユニーク・ブラボー・シネマ

ユニークさに欠ける凡人が、映画に溢れるユニークを味わいつくし喝采したい映画ブログ

『天才作家の妻 40年目の真実』感想 脇のクリスチャン・スレイターが良い

f:id:shimauman:20190920013605j:plain

(C)META FILM LONDON LIMITED 2017

『天才作家の妻 40年目の真実』を鑑賞しました。

 

作品概要

The Wife/2017年製作/101分/スウェーデン・アメリカ・イギリス
監督:ビョルン・ルンゲ
出演:グレン・クローズ、ジョナサン・プライス、クリスチャン・スレイター他

 

あらすじ

アメリカ、コネティカット州。現代文学の巨匠として名高いジョゼフのもとにノーベル文学賞受賞の報せが舞い込み、ジョゼフは40年間連れ添った妻ジョーンと喜びを分かち合う。さっそく2人は作家となった息子を伴い授賞式に出席するためスウェーデンのストックホルムを訪れる。するとジョーンの前にジョゼフの伝記本執筆を目論む記者ナサニエルが現われる。彼は、作家として二流だったジョゼフがジョーンとの結婚を機に傑作を次々と生み出した事実を突きつけ、その裏には単なる内助の功以上の秘密があったのでないのか、とジョーンに迫るのだったが…。
allcinemaより引用

 

感想(ネタバレあり)

まず、監督のビョルン・ルンゲという人は日本での公開作が今までなかったようなので全く知らなかったけど、スウェーデン人監督で、公式サイトのインタビューによると、グレン・クローズの指名によって本作の監督を務めたようです。監督としての手腕にプラスして、この映画の舞台となるスウェーデン出身ということもポイントだったのかもしれません。

アメリカ人作家とその妻がノーベル文学賞の受賞の電話を受け取るところから始まり、その授賞式のために向かったスウェーデンのストックホルムでの短い期間に起こる出来事を描いたこの映画。普段なかなか垣間見ることのできない、ノーベル賞受賞者への密着ものとしても楽しめるのが乙なもので、ちょっと得した気分になれます。

 

邦題から察することができるとおり、本作は「実は巨匠作家の小説を書いていたのは妻でした」ということが主軸のストーリー。邦題がネタバレだと怒る人も居るようですが、この映画はもう最初のうちから妻の表情によってその事実が観客に伝わるように描かれているのでネタバレ云々に関しては全くの許容範囲だと思います(良し悪しは置いといて)。どうしてそうすることに至ったか、ということが回想シーン(妻役グレン・クローズの若い頃を彼女の娘が演じている)で順々に描かれていくため、その大きな真実は織り込み済みで、過去の経緯と現在のグレン・クローズの心情をあらわす表情や、夫とのやり取りを味わっていく作品でした。

夫のノーベル賞受賞をきっかけに、だんだんと心がくぐもり始める妻。40年間それでやってきたのにどうして今更不満を抱くのかと言われなくもないと思うけど、そこのあたりの夫婦関係も丁寧に描かれている。一番は、夫の彼女への配慮のなさが原因だろう。「内助の功」として感謝のスピーチをされればされるだけ、彼女は夫によって存在を塗りつぶされていってしまう。奥さんにほとんど書いてもらっておいてよくそんな態度でいられるなおまえは!って言いたくなる、すっとぼけたどうしようもない夫なのだ。

きっと彼女は過去にも同じような感情を少しくらいは抱いただろうし、それでもなお、彼のことが好きだったのだと思うけど、はたから見たらあの夫のどこがそんなに良いかは分からない(笑)。そんな感じなので、復讐映画のような展開や残酷さはそんなになく、結局色々ありつつも長年寄り添ってきた夫婦のウェルメイドな物語として決着していきます。そこがちょっと物足りない部分でもあったけど、ある意味これが熟年夫婦のリアルかもなという気もした。

 

夫婦役のグレン・クローズとジョナサン・プライスの演技は流石だけど、彼らの嘘を追う記者役として登場するクリスチャン・スレイターの存在感も良かった。曲者感と煙たいいやらしさ。『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』でも記者の役をやってたけど、もっとたくさんやってそうなイメージがあるのはそれだけこういう役が似合ってるからかも。グレン・クローズとのちょっと色気すら漂うカフェでの対峙シーンは特に良かった。

スキャンダルなどの影響もあり、90年代の活躍に比べれば低迷しているけど、5年スパンくらいの忘れた頃にこうやって話題作に出てきてくれるクリスチャン・スレイター。『トゥルー・ロマンス』や『忘れられない人』が好きなので嬉しい。せめて3年スパンにしてほしいけどw

クリスチャン・スレイターの良さを再確認できる映画でもありました。