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『パティ・ケイク$』感想 最高の女版『8Mile』

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(C)2017 Twentieth Century Fox


『パティ・ケイク$』。まったくノーマークの作品でしたが、女性のラッパーものは今まで観たことがなかったため、興味本位で鑑賞しました。しかし!これが想像以上に良い映画で興奮いたしました。では、感想です。

 

 

作品概要

Patti Cake$/2017年製作/109分/アメリカ
監督・脚本:ジェレミー・ジャスパー
出演:ダニエル・マクドナルド、シッダルト・ダナンジェイ、ブリジット・エヴァレット、マムドゥ・アチー他

 

あらすじ

ニュージャージーの寂れた町で、酒に溺れた元ロック歌手の母と車椅子の祖母と3人暮らしのパティ。ラップでの成功を夢みるが、周囲ばかりか母親からも冷たい視線を浴びる日々。くじけそうになりながらも、同じくラッパーを目指す親友のジェリとともに魂の叫びをライムに込めるパティ。そんなある日、ついに正式なオーディションに出場するチャンスを得たパティだったが…。
allcinemaより引用 

 

感想

女優ダニエル・マクドナルドの輝き

典型的なホワイトトラッシュ、どん詰まりな人生。だけど彼女にはラッパーとして成功するという夢があった。

かつてエミネムが主演した『8Mile』(2002)は、ラップ一つで成り上がろうとする貧困層の白人男性を描いた映画だったけど、本作はそれの白人女性版と言える作品で、しかも太っていて周りからダンボとあだ名を付けられバカにされる女性が主人公。

この映画、何が良いって、この主人公・パティがとても魅力的なのだ。おデブで貧乏、だけど性格はチャーミング。憧れのラッパーを目指して毎日自作ラップを作りながら、自分がスターになった妄想を脳内で繰り広げ最悪の生活を乗り切っている。ちなみにラッパーネームは「キラーP」。

ストリートのラップバトルでは、恋心を抱く相手(イケメン)に面と向かって容姿を罵倒されるという、同じ女からしたら目を覆いたくなるキツい経験も。しかし、ほぼダウン寸前のブローを食らいながらも、きちんとラップで返し、相手の反則を誘発する見事な反撃を見せてくれる。ひとたびラップをさせると男顔負けのかっこよさなのだ。(その後に「ひどいこと言われた…」って素直に落ち込んでるのもまた良い)

この主人公パティを演じたのが、ダニエル・マクドナルドという女優。本物のラッパーかな?って思うくらい素晴らしいパフォーマンスを映画のなかで披露していて、主人公のスキルの高さにちゃんと説得力を与えてくれていた。まあ、当然ラップ素人なんでライムとか細かいことはよく分からないのですが、一瞬でかっこいい!って思わせてくれるものがあったのが映画としてとにかく強い。何より、ラップをし始めると途端にオーラが溢れ出てくるのがかっこいいんです。いち女優でここまでできるとか凄すぎるんじゃないでしょうか。

ラップパートだけじゃなく、最初に書いたように、このパティという魅力的なヒロインに息を吹き込んだ彼女の演技が最高なんですよね。ちょっとした表情がめちゃくちゃ良い。自信なさげで、でも調子こきで、欲望に弱そうで、素直で、お茶目で、ときにクールで、ゴージャスで。給仕のバイトで着用する白シャツをピチピチのズボンに押し込めるちょっとした仕草ひとつとってもこのキャラクターを表していて良いんです。もうこの一作だけでめちゃくちゃ好きな女優になってしまったんですけど、フィルモグラフィーを調べると最近観た『バード・ボックス』にも出ていたと知って驚いた。あの太った妊婦さんか!

 

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出典:IMDb 映画『バード・ボックス』より

『バード・ボックス』では主演のサンドラ・ブロックと共に、もう一人の妊婦を演じていたダニエル・マクドナルド。同じ人だとは全っ然気付かなかった!この映画では気弱でちょっとウザい感じもするけど気の優しい女性になりきっていて、本作とはまるで別人。『バード・ボックス』でも印象に残っていたけど、こんなに色んな役ができる女優さんだとは思わなかった。すごい女優さんを知ってしまったわ。

 

ちなみに前に書いた『バード・ボックス』の感想記事はこちら↓(ダニエル・マクドナルドに関する記述はないですが)

www.minimal-akino.com

 

今後の作品としては、ジェイミー・ベル主演の『skin(原題)』(全身タトゥーの元ネオナチの男の実話)にジェイミー・ベルの彼女役として出演しているようです。ジェイミー・ベルも好きなんで気になってた作品!今のところ日本公開未定みたいだけど、この2人のカップルとか楽しみすぎてはよ観たい…

 

メンバー集め映画としても最高 

この映画、メンバー集め映画としてもめちゃくちゃ良かったんですよね。

まず、主人公パティには、元々一緒にラッパーを目指すインド系の青年ジェリ(シッダルト・ダナンジェイ)という親友が居るわけですけど、こやつがめっちゃ良い奴なのです。パティの才能を誰よりも信じ、応援し、一緒に頑張る。きっとパティ一人だったらこの物語はなかっただろうと思える、男女の友情と信頼関係。しかも女性+インド系というマイノリティな組み合わせが見せる妙もたまらなく良いのです。恋する男にラップバトルで罵られ落ち込むパティに「それがバトルだ」と力強い言葉を返したり、ネガティブになる彼女に「マイナス思考は心の毒だ」と言ったりと、常に彼女を支え鼓舞してくれる存在として側にいる。私もマイナス思考に陥りやすいタイプなんで、この男の言葉にハッとさせられましたよ。もうこの人と付き合っちゃえよって思う私は単純なのだろうけど、とにかく本当に良い奴で、ラップパートナーとしての相性も良いんですよね。

そして彼ら2人が出会った変わり者の黒人青年。世俗から逃れ、森の中で生活し、独自の音楽性を持つ彼。ちょっとここ数年見た映画のなかでも稀にみるほどの変わった、他人とコミュニケーションの取れない不気味な男。そんな彼にも積極的にコミュニケーションを取りに行き、次第に彼の心を開いていくパティの人の好さみたいなものがまた良いし、彼の家の機材でついに本格的な楽曲制作へ至ることができます。

そこに加わったのがまさかの車椅子で生活するパティの祖母。いや、たまたまそこに居合わせただけやんっていう流れから、彼女の声が入ることで曲がちゃんと面白くなる見せ方までお見事でした。

このメンバー集めからの楽曲制作。ここが本当に最高で、ああ、こうやって音楽って作れるんだっていうシンプルな感動と、曲自体の持つ魅力がバーンと体に貫いてくる。そして同時に、閉塞感漂う彼らの日常が一気に開けていく場面でもあって、とても気持ちが良かったです。

 

昔歌手を目指していたパティの母親とパティの確執もこの映画のポイントになっていて、このお母さんも歌が上手く、過去との決別ができずくすぶっている女性として描かれています。

ライブシーンもすさまじく良かった…

監督のジェレミー・ジャスパー氏は、これが長編デビュー作で、音楽も担当してるとかすごいな。本当に面白い映画と出会えたなという感じで、非常に楽しめた一作でした!

 

パティ・ケイク$ (字幕版)

パティ・ケイク$ (字幕版)