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『アリー/スター誕生』感想~主役はブラッドリー・クーパー

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(C)2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

1937年『スタア誕生』の3度目のリメイク版となる『アリー/スター誕生』。

既に音楽界のスターであるレディー・ガガが、スターへの階段を上がっていく主人公を演じる映画となると興味をそそられます。共演のブラッドリー・クーパーとどういう相性を見せてくれるのかということにも期待しながら鑑賞しました。(ブラッドリー・クーパーが監督も務めてることはあとから知る)

ちなみに今までのスタア誕生3作はどれも未見。

今回割とマイナスな感想が多いので、この映画が大好きで批判は目にしたくないという人はそっ閉じでお願いします。

 

作品概要

A Star Is Born/2018年製作/136分/アメリ
監督・脚本・製作:ブラッドリー・クーパー
出演:レディー・ガガブラッドリー・クーパー、アンドリュー・ダイス・クレイ、デイヴ・シャペル、サム・エリオット、ラフィ・ガヴロン他

 

あらすじ

音楽業界での成功を夢見るアリーが、国民的ミュージシャンのジャクソンにその才能を見出され、華やかなショービジネスの世界で愛と挫折を経験しながらやがてスターへの階段を駆け上がっていく物語。
Firmarksより引用

 

感想(多分そんなにネタバレなし)

楽曲がいまいちだった

アメリカでは批評家からも観客からも評判の良かった作品だったそうですが、私はあまりのれない映画でした。正直、2時間16分という時間が長く感じた。

その一番の理由は、楽曲がつまらなかったこと。歌曲賞も受賞してる映画なのに何言ってんだって感じだけど、いち個人の感想ということでお許しを。

一般的に音楽映画は当然歌ってるシーンが多いから、楽曲が好みに合わないと毎回本当に見るのが苦痛でしょうがない。王道のミュージカル映画も、そこに使われてるいかにもミュージカルな曲自体が大の苦手なので、観ているあいだ本当に胸やけがしてきます。

この映画も主役2人が歌手なので、とにかく歌うシーンが多いけどほとんど響いてこず。そこで歌われるのはカントリーロックとかブルースロック、バラード系な曲が多く、スローめで割と単調な、味わいで魅せる楽曲となっています。すべてオリジナルで作ってるのは素晴らしいと思いますが、曲が物語とリンクしている以上、必然的にハードルもかなーり高くなってしまうのが難点。

冒頭、ブラッドリー・クーパー演じるカントリーロック歌手、ジャクソンが歌うシーンは、大勢の観客を熱狂させるステージとなっていて、この歌手が大物なんだなってことを伝えるシーンになっています。

しゃがれた渋めの声と曲調から、なんとなくパール・ジャムエディ・ヴェダー系のミュージシャンかなと想像したとおり、実際にブラッドリー・クーパーエディ・ヴェダーをモデルにし、彼のもとへ話を聞きに行ったりもしていたそう。ちなみにブラッドリー・クーパーはそれまで全くやってこなかったギターと歌もこの映画のために習得。気合いが入っています。

しかし、人気歌手という物語上の設定を納得させてくれるまでの説得力は、残念ながら私は感じられなかったんですよね。これが普通に役者のブラッドリー・クーパー本人が歌っているという状況なら、役者なのに上手い!と確実に思えてたとは思うんですが。

しかも私はモデルとなったエディ・ヴェダーをたまたま知っていたために、自然と彼と比較してしまっていたと思います。エディ・ヴェダーが音楽を手掛けた映画『イントゥ・ザ・ワイルド』(ショーン・ペン監督)は、大袈裟じゃなく本当に一番好きな映画でして、めちゃめちゃ思い入れが強く、エディ・ヴェダーの音楽も本当に素晴らしいんですよ。特に「Guaranteed」って曲がめちゃめちゃ素晴らしく…。

エディ・ヴェダーの深みのある歌声と歌詞、曲を知っていたため、それをモデルとして作ったジャクソンというキャラクターの歌う歌が、真似てはみたものの核となる部分までは真似できてないというふうに感じてしまったんだと思います。

ブラッドリー・クーパーも声を作ったりして頑張ってたんですけどね。曲もいまいちだったため、これでこんなに人気があるのか?とまずそこから物語に入っていけずでした。

そしてレディー・ガガはさすがに上手かったですが、こちらも曲が好きじゃなかったです。ガガはやっぱり「Born This Way」のようなギラギラで激しめなポップスを歌ってるほうが好きだ。

あと曲の歌詞が全体的に、直接的すぎるうえに臭く聴こえるのが結構しんどかった。物語に則して主人公たちの感情や状況が歌になるのは音楽映画の基本だと思うけど、それが歌に反映されすぎててちょっと気持ちが悪い。特にブラッドリー・クーパーが歌う曲がナルシスティックに感じて嫌だったなあ。

とまあ、曲がいまいちということに文字を割きすぎてしまったけど、オリジナル曲を使った音楽映画で本当に満足できるもの自体がなかなか希少なものなので、これはしょうがないなという気もしている。私がこういう映画を観るのを止めれば早い話だしな。でもそんなこと忘れてしまってついつい見ちゃうんだけどさ。

 

主役はブラッドリー・クーパー 

ストーリーに関しては、酒に走るタイプの弱い男の話が基本で、アリーというよりジャクソンの映画でした。

他のスタア誕生がどこまで男側寄りなのかは知らないけど、監督がブラッドリー・クーパーで、相手役は女優が本業じゃない歌手ならば、そういう比重になってもおかしくはないなと思った。元々女優志望だったレディー・ガガは演技もナチュラルで良かったけどね。

ブラッドリー・クーパーはアル中な男でほとんど酒に酔ってるんだけど、その酒浸り演技はめちゃくちゃ上手いし、ブラッドリー・クーパーお得意の傷つきやすい、純粋で弱さのある男の役は見事だった。兄とのシーンは泣けたし、難聴が進んでしまって音楽活動もうまくいかず、どんどん自分を追い詰めていってしまうところが切なくやりきれない。

ブラッドリー・クーパーはイケメンだけど、あの笑顔と瞳の純粋さが他の俳優との差異を作っていて面白い俳優だなと思う。笑顔の裏に心に傷を抱えてる役が似合う。わけても『世界にひとつのプレイブック』や『ジョイ』などのブラッドリー・クーパー×ジェニファー・ローレンス×デヴィッド・O・ラッセル監督の組み合わせは相性が良くて好きだ。

レディー・ガガとの間にはジェニファー・ローレンスとの共演ほどにはマジックは生まれていなかったかなとは思ったけど、よく考えればあのマジックはデヴィッド・O・ラッセルだからこそなのかもしれない。 

監督としてのブラッドリー・クーパーは、どうなんだろう、この映画は良いところもあったと思うけど、いまいちなところも多かったから難しい。もっとギュッとして2時間以内には抑えられるんじゃないかとは思った。

最初の2人の出会いの場面で、ジャクソンがアリーの素顔が見たいと言って濃い化粧をとるんですけど、ここのシーンは普段派手なメイクと格好で人前に出ているレディー・ガガ本人の素顔を見せるという、二重の意味になっていて良かったと思いました。 

でもやっぱりアリーがサクセスストーリーを歩んでからの人間描写が足りなかったため、ラストの良さが薄れたかなという気はします。