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『ワンダー 君は太陽』感想~太陽は、惑星を照らす

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(C)2017 Lions Gate Films Inc. and Participant Media, LLC and Walden Media, LLC. All Rights Reserved.

顔に障害を持って生まれた少年と、彼の周りの人々を温かい視線で描いた映画『ワンダー 君は太陽』。 

監督は『ウォールフラワー』のスティーヴン・チョボスキー。主人公・オギーを演じたのは『ルーム』のジェイコブ・トレンブレイ、彼を見守る両親をジュリア・ロバーツオーウェン・ウィルソンが演じています。

『ワンダー Wonder』というベストセラーの原作があって、それまでグラフィック・デザイナーだったという原作者がこの小説を書こうと思ったきっかけが、顔に障害のある子を見て自分の子供が声を出して泣き出してしまったことからだそうです。

なので、成り立ちからして「人と違う子とどうやって向き合えばいいのかを子供たちに教えることを目指した作品」のため、基本的に善良な人ばかりが出てくる作品にはなっています。が、決してお涙頂戴系の描き方ではなく、しかし涙で目が腫れる映画でありました。では感想です。

 

作品概要

Wonder/2017年製作/113分/G/アメリ
監督・脚本:スティーヴン・チョボスキー
出演:ジェイコブ・トレンブレイオーウェン・ウィルソンジュリア・ロバーツ

 

あらすじ

オーガストこと”オギー”はふつうの10歳の男の子。ただし、“顔”以外は…。
生まれつき人と違う顔をもつ少年・オギ―(ジェイコブ・トレンブレイ)は、幼い頃からずっと母イザベル(ジュリア・ロバーツ)と自宅学習をしてきたが、小学校5年生になるときに初めて学校へ通うことになる。クラスメイトと仲良くなりたいというオギーの思いとは裏腹に、その外見からじろじろ見られたり避けられたりするが、彼の行動によって同級生たちが徐々に変わっていく…。

filmarksより引用https://filmarks.com/movies/68660

 

感想(ネタバレあり)

自宅学習から学校通学に変えることになって始まる話なのだけれども、これは主人公オギーの父親が「解体場に送られる子羊と同じだ」と例えたように、絶対に傷つくことは分かってる試練なので、見てるこちらもどうにか頑張ってくれと応援せずにはいられない。

作中では多分出てこなかったけど、オギーの障害は「トリーチャー・コリンズ症候群」という名前で、5万人に1人の割合で生まれてくる遺伝子性の疾患らしい。

映画のポスターだけ見て、学校でもヘルメットを被ったままなのかなと勘違いしていたけど、もちろんそんなことはなかった。小さな体にあの大きなヘルメットがなんとも可愛らしく、デザインもクールで良いヘルメットだなって思うけど、やっぱりずっとあれを被って生活するわけにはいかないもんなあ。

オギー自身も学校でどんなふうに奇異の目で見られるのかをすでに分かってるからなんとも痛ましく、案の定、傷ついて帰ってくるので「ああ…」とならずにはいられないのだけど、ついに友達ができて心のなかでスキップしてるオギーに涙腺崩壊。さらにそのあと息子が友達といる姿を見て、言葉が出てこない母役のジュリア・ロバーツが良かったよね。泣くわあんなの。ヘルメットを持って待ち構えていたのも、良い演出だった。今のオギーには必要ないのだヘルメットなんて。

そして何よりこの映画が良かったのは、別の登場人物の視点も描いていたこと。障害を持つオギーだけではなく、他の子たちも様々な悩みや感情を抱えているということを映し出していて、一人の話にはしていなかったことがこの映画のテーマに合っていて素晴らしかったです。なぜ、「君は太陽」なのかが分かりました。

オギーの初めての友達ジャック・ウィル(何故か苗字とセットで呼ばれる子)が、「顔はしばらくしたら慣れる」と言っていたけど、結局そうなんだよなって思う。どんな綺麗な顔面をした異性でも、ずっと一緒に居て四六時中見ていたら飽きてくるのと同じように、見慣れない顔も、いつかはそれが見慣れた顔になって何とも思わなくなってくるものなのだきっと。そして結局、楽しい人たちのところへ人は集まるのだということですね。 

ジャック・ウィルがいじめっ子たちに混ざって、オギーの居ないところで彼の悪口を言ってしまった場面も、子供ならよくあることだ。少女漫画で百万回読んだ「別にあいつなんて好きじゃねーよ」を好きな子に聞かれてしまうというパターンと同系統のやつだきっと。ちなみにジャック・ウィル役の子はどこかで観たことあるなーと思っていたら、最近観た『クワイエット・プレイス』で臆病な息子役をやっていたノア・ジュプ君だった。こっちでの演技も良かったし、今後の活躍が気になるところ。

そして主役のオギーを演じたジェイコブ・トレンブレイ君も『ルーム』でもう素晴らしさを存分に発揮してたけど、この映画でも見事だった。どこかチャーミングな哀愁が漂ってるのが良いのだよね。野外学習で喧嘩になったときにとった、あのファイティングポーズの可愛らしさは反則だ。

ジュリア・ロバーツと夫婦役を演じたオーウェン・ウィルソンも良かった。夫婦としての立場の強いしっかり者の妻の横で、常に笑いを添えて生活する夫。子供と一緒にゲームに夢中になる、若干子供のようなところのあるあの父親役にオーウェン・ウィルソンはハマり役だ。愛犬が死んでしまって一番泣いて落ち込んでいたのもこの父で、オギーに励まされたりしていた。

お姉ちゃん側の話も良かったし、お姉ちゃんは自分は割を食っても結局いつもオギーに優しいし、良いお姉ちゃんだなと思う。演じたイザベラ・ヴィドヴィッチの表情には結構引き込まれるものがあった。

そしてスティーヴン・チョボスキー監督は自身の小説を監督した『ウォールフラワー』がとても良かったので、この映画もきっと良いだろうと高を括ってたけど、やっぱりこの監督は一つ一つのシーンを丁寧に描く人だなあと思った。だから感情を誘う良いシーンが多いのだろうなきっと。そういえばよく考えると『ウォールフラワー』も友達の居ない子が友達を作るという作品だった。確か半自伝的な作品だったそうなので、監督の周りと馴染めなかった過去が本作にも生かされてるのだろうと思う。

 

ちなみに夫婦水入らずのディナーシーンで、オーウェン・ウィルソンジュリア・ロバーツに渡すプレゼントが何だったかのか結局明かされなかったので調べたら、あれは監督からのサプライズシーンで、何が入っていたかはジュリア・ロバーツに口止めされていて監督も言えないらしい。事前にプロデューサーから「ジュリア・ロバーツは映画史最高の笑い声の持ち主なのだから、絶対に引き出してくれよ」と言われていて、笑い声を引き出すためにあのプレゼントのサプライズをしたそう。

出典:Interview with Stephen Chbosky about "Wonder" /『ワンダー 君は太陽』 スティーヴン・チョボスキー監督来日インタビューneol.jp | neol.jp

プロデューサーにそんなことまで要望されるのか大変だなと思うけど、確かにあのジュリア・ロバーツの笑い方はこっちまで笑顔にさせる威力があった。あまりにも自然な笑い方だったので、きっと中身は知らなかったんだろうなとは感じたけど、やっぱり俳優の演技を引き出すには色んなやり方があるのだなあ。