『ゲティ家の身代金』感想 お金持ちじゃなくて良かったと思わせてくれる映画
リドリー・スコット監督『ゲティ家の身代金』を鑑賞。
劇場公開1か月前になってケヴィン・スペイシーが例のスキャンダルで降板、そこからクリストファー・プラマーを急遽代役に立てて撮り直し、無事予定通りの日程で公開させたという製作背景からしてもう凄い。まるで『オデッセイ』の主人公のように冷静に危機を乗り越えてみせた巨匠リドリー・スコット。さすがの一言ですよ。
作品概要
All the Money in the World/2017年製作/133分/アメリカ
監督:リドリー・スコット
出演:ミシェル・ウィリアムズ、クリストファー・プラマー、マーク・ウォールバーグ、チャーリー・プラマー、ロマン・デュリス他
あらすじ
ある日、世界一の大富豪として知られた石油王ジャン・ポール・ゲティの孫ポールが誘拐される。しかしゲティは犯人が要求する身代金1700万ドルの支払いを拒否する。ポールの母親ゲイルは離婚してゲティ家から離れた一般家庭の女性。到底自分で払えるわけもなく、ゲティだけが頼みの綱だった。そのゲティににべもなく拒絶され、途方に暮れるゲイル。一方、誘拐犯もゲティの予想外の態度に苛立ちを募らせていく。そんな中、元CIAのチェイスが交渉役として事件の解決に乗り出すが…。
allcinemaより引用
感想(多分そんなにネタバレなし)
ケヴィン・スペイシー降板からの早業もすごいけど、この映画が実話ベースということもなかなかすごい。
1973年に起きた実際の誘拐事件。誘拐されたのは、世界一の大富豪ジャン・ポール・ゲティという人の孫。
大金持ちの家族が誘拐され身代金を要求されるというのはよく聞く話だけど(それをよく聞く話で済ましてしまうのもあれだけど)、孫が誘拐されているのにドケチが過ぎて「わしゃ一銭も払わん!」とばかりに要求をはねつける世界一の大富豪じいさん。
誘拐されたポールくんの母親(ミシェル・ウィリアムズ)は、誘拐犯との交渉もさることながら、お金を出さない大富豪のじいさんとも交渉しないといけないという、不謹慎ながら映画としては非常に面白い構造になっていました。
誘拐犯たちは素人感丸出しで、ダメダメな人たちだなーと思っていたけど、そこから闇の深い怖ろしい展開になっていたのも良かった。というかそれが実話なんだから本当に怖いのだけれども。
そして大富豪じいさんの、お金に対する執着も怖ろしい。私のような庶民はお金持ちの考えることなぞ想像すらできないのだけど、無理くり一般的なことに直して考えてみると、こういう行き切った人たちはきっと極めすぎて感覚がおかしくなってしまうのだろうと思った。お金儲けということじゃなくても、何か一つのことばかり考えて生きているとそれに囚われてしまって、そのことでしか判断ができなくなる。こういう感覚はどこか分かる気がする。この映画の大富豪はいかに無駄なことにお金を出さないかということばかりを考えてきた人だから、もうそういうふうにしか頭が働かなくなっているように見えた。
この映画は、「お金があったらあったで人は不幸になるものなのだな…」という、今までの人生で何度か思ったことのある考えを過去最大級に身に沁み込ませてくれる映画でした。そうだ、貧乏で良かったと。(ウソ)
まあでも、一番かわいそうなのはポール君で、身代金のために人質にされてしまうのはお金持ちの祖父を持つゆえのことなので本当にこれは大変な身の上だよ。
誘拐犯とゲティ氏の両方に対して交渉をしたポールくんの母は、普通の母親のような取り乱し方もしながら、ゲティ氏と対等にやりあう頭の良さも持った人として描かれる。この人はその場のお金を受け取るかわりに、もっと大きな大事なものを出させることを考えているため、権力とお金で勝負するゲティ氏にとっては天敵となっていて、この対比も上手いなと思わされる脚本でした。
70年代の衣装に身を包み、濃いメイクを施してこの母親役に扮したミシェル・ウィリアムズは、今まで見てきた彼女の雰囲気とはまったく違っていたのが印象的。喋り方も表情も完全に化けていて、彼女の演技力の高さを窺い知れる一作にもなっていました。
ちなみに映画のなかでもチラッと話が出ていたジャン・ポール・ゲティ氏の書いた著作が日本でも発売されているようです。
ポール・ゲティの大富豪になる方法 (ウィザードブックシリーズ)
- 作者: ジャン・ポール・ゲティ,長谷川圭
- 出版社/メーカー: パンローリング株式会社
- 発売日: 2019/03/17
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しかし、「この本に書かれてる方法を実践すると本当に富豪になれるよ!」ともし言われたとしても、この映画を観た人で実践しようと思う人が居るのかはなはだ疑問であります。出版社の人たちよくこの本出したなと思う(笑)