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『U・ボート』感想~潜水艦ものの名作

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(C)1981 Barvaria Film GmbH, (C)1996 Barvaria Film GmbH

いつか観ようとずっと思っていた、潜水艦もの戦争映画の金字塔『U・ボート』(1981)をついに鑑賞しました。

観れるのが長尺のディレクターズ・カット版だけという状態だったので、時間を作る必要がありました。その長さ、3時間28分。(ちなみに当時の劇場版は2時間15分)

正直、感想を書くのに時間がかかってしまうタイプなので、映画の長さもなるべく短いほうが助かるんですが、そんなことで良いのかと自分に問いただし、腰を据えて観ることを決意しました。

では、3時間半を観終わっての感想です。

 

作品情報

原題:Das Boot
製作年:1997年(ディレクターズ・カット版)
製作国:西ドイツ
上映時間:208分
配給:角川書店
監督・脚本:ウォルフガング・ペーターゼン
出演:ユルゲン・プロフノウ、ヘルバート・グリューネマイヤー、クラウス・ヴェンネマン他

 

あらすじ

1941年、ナチス・ドイツの占領下にある港町から、ドイツ軍の若き乗組員を乗せた1隻のUボートが出航する。与えられた任務を遂行するため、狭い艦内で身を寄せる彼らには過酷な試練が待っていた――。

 

感想(ネタバレあり)

3時間半があっという間だった!とはさすがにならなかったけど、非常に見応えのある映画でした。

潜水艦という密閉空間のなかでの人間ドラマや戦いが描かれるけど、ドラマにも寄りすぎず、戦いにも寄りすぎず、とにかく潜水艦のなかで起こることを映しだすという無骨な作品。最近では、なかなかお目にかかれないタイプの映画ですね。

戦車映画『フューリー』を観たときにも思ったけど、こういう密閉された外からは窺い知ることができない乗り物の中の様子や戦い方を知れるのはやっぱり面白いです。

潜水艦内を舞台にした映画は『レッド・オクトーバーを追え!』くらいしか多分ちゃんと観たことなかったので余計に。ここまで潜水艦というものを描いた作品って他にないんじゃないだろうかと思うくらい、潜水艦映画です。

縦長空間な艦内はちょっとしたアスレチックみたいで楽しそうだけど、まあ実際に乗れば楽しいのは最初だけで、日が増すごとに乗組員たちは狭くて暗い艦内で疲弊していきます。

敵の船ともなかなか遭遇できず、ちゃんとした戦いが始まるのは映画がスタートしてかなり時間が経ってから。始まったら始まったで、その戦いは驚くほど地味です(笑)。とにかく耳をすまして音で状況を判断するという極めて繊細な攻防。乗組員たちは、敵船がどこに居るかも、魚雷が当たったかどうかも、すべて音で判断してます。一応、観てる人向けに魚雷映像や爆発映像も挿入されてますが、それも必要最小限。めちゃくちゃストイックな映画です。

味方の潜水艦を海上で見つけて「お~い」と嬉しそうに手を振るシーンがほのぼのしましたが、そのあと艦内に戻ってすぐに「なんで近くに2隻もいるんだ!」「広い海でなんで味方同士がかたまってるんだ!」って艦長がいきなり怒りだして豹変したのはちょっと面白かったですw

長い航海で心身ともに疲労して、敵からの攻撃も受けて、だんだんと乗組員の情緒が不安定になっていく様子がよく描かれていました。

艦長と機関長は経験豊富な渋いおじさんといった具合でしたが、それ以外はみんな20代くらいの若者たち。

いったんスペインの港に寄ることになり、そこに停泊しているドイツ軍の高官たちの豪華船に、士官たちが招待される場面があります。そこには美味しそうな食べ物が並び、呑気に戦果を尋ねてくる高官たちは潜水艦内の過酷さは知ったこっちゃありません。

暗くて狭い艦内でボロボロになり、終わらぬ任務に途方に暮れている若い乗組員たちはその場所に入れさせてすらもらえません。この対比が戦争というものをよく表してました。

アメリカ映画だとドイツ軍は冷徹無比に描かれることが多いですが、実際に現場にいる人たちの無常さやただただ早く帰りたいという感情がこの映画では描かれています。そこに説得力があるのは、時間をかけて艦内の日々を映し出した無骨な映画だからこそだろうなと感じました。

ラストには非情な運命が描かれますが、ドイツ軍の戦争の行く末を暗示するようなものになっていて素晴らしかった。 乗組員たちに感情移入している身としては悲しかったけど、映画の終わり方としてはこれ以上ない終わり方だと思いました。

長い映画だったけど、やっぱり観て良かったです。